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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)11868号・平7年(ワ)3213号 判決

第一事件・第二事件原告 株式会社システムハードウェアー(以下「原告会社」という。)

右代表者代表取締役 岩住泰子

右両名訴訟代理人弁護士 中村嘉男

同 黒田修一

同 亀田悦廣

同 原田裕彦

第一事件・第二事件原告兼同亡岩住幸郎訴訟承継人岩住泰子補助参加人 岩住達郎

右訴訟代理人弁護士 樋口収

第一事件被告 株式会社アシスト(以下「被告アシスト」という。)

右代表者代表取締役 福島正己

第一事件被告 川口義信(以下「被告川口」という。)

右両名訴訟代理人弁護士 真鍋能久

同 露峰光夫

第一事件被告 福島正己(以下「被告福島」という。)

右訴訟代理人弁護士 今泉純一

第二事件被告 株式会社住友銀行(以下「被告銀行」という。)

右代表者代表取締役 西川善文

右訴訟代理人弁護士 川村俊雄

主文

一  原告泰子及び原告会社の第一事件請求及び第二事件主位的請求をいずれも棄却する。

二  被告銀行は、原告泰子に対し、金九億五四九四万六七八五円及びこれに対する平成五年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告銀行は、原告会社に対し、金三億二七一五万五四〇〇円及びこれに対する平成五年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告泰子及び原告会社のその余の第二事件予備的請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、第一、第二事件を通じ、原告泰子、原告会社及び被告銀行に生じた費用の五分の一を被告銀行の、その余を原告泰子及び原告会社の負担とする。

六  この判決は、二、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

被告アシスト、被告川口及び被告福島は、連帯して、原告泰子に対し金二億円、原告会社に対し金一億円及び右各金員に対する平成六年一二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  第二事件

1  主位的請求

被告銀行は、原告泰子に対し金四九億三八六四万四一三三円、原告会社に対し金一五億八八〇六万五八三五円及び右各金員に対する平成七年四月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  予備的請求

被告住友銀行は、原告泰子に対し金二三億六六九四万三〇〇〇円、原告会社に対し金七億六一一一万二〇〇〇円及び右各金員に対する平成四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

一  第一事件

第一事件は、東洋シャッター株式会社(以下「東洋シャッター」という。)との間で合併契約を締結し、同社に吸収合併されて解散した岩住サッシ株式会社(以下「岩住サッシ」という。)の元大株主であった元原告亡岩住幸郎(以下「幸郎」という。)の承継人で自らも原告である原告泰子及び原告会社(以下、右三名を合わせて「原告ら」と、幸郎と原告泰子を合わせて「幸郎ら」と、原告泰子及び原告会社を合わせて「原告両名」という。)いう。なお、幸郎の本訴請求は原告泰子が承継した。以下同じ。)が、右合併契約を仲介した被告銀行の依頼により合併比率の算出・評価を行った被告アシストは、非上場会社である岩住サッシの評価をするに当たって、岩住サッシが所有する土地・営業権等を不当に安く評価する一方で、上場会社である東洋シャッターについては、これと同一の評価基準を採用せず、単純に一時期の月平均株価を基準として、不当に高く評価したため、右評価を基に合併契約を締結した原告らは損害を被ったもので、被告アシストの右行為は原告らに対する不法行為を構成し、また、当時、同被告の代表取締役兼業務担当責任者であった被告川口及び同じく被告アシストの取締役であった被告福島には、不法行為又は取締役としての任務懈怠による不法行為(商法二六六条の三)が成立すると主張して、被告アシスト、被告川口及び被告福島に対し、連帯して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、原告らが被った損害の内金として、原告泰子は二億円(幸郎分一億円及び原告泰子固有分一億円の合計額)、原告会社は一億円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である平成六年一二月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

二  第二事件

第二事件は、原告両名が、<1>東洋シャッターとの合併につき、原告らは被告銀行との間で委任契約を締結したので、同被告には岩住サッシ及び東洋シャッターの価値を適切に評価すべき義務があったにもかかわらず、同被告は、右義務に違反し、被告アシストと通謀して、前記一のとおり、岩住サッシの価値を不当に低く、東洋シャッターの価値を不当に高くそれぞれ評価し、原告らの合併中止の申出を不当に拒絶して原告らに多大な損害を被らせたと主張したほか、<2>原告らはもともと会社売却による現金取得を目的としていたところ、被告住友銀行は、原告らに対し、東洋シャッター株式のはめ込み先を斡旋することを約したことを前提に、原告らは合併方式への転換を承諾したのであるから、同被告には、右斡旋約束に基づき、東洋シャッター株式のはめ込み先を斡旋すべき義務があったにもかかわらず、同被告は、右義務に違反し、東洋シャッターの株価が下落し、原告らの損害が拡大していくのを漫然と傍観したと主張して、同被告に対し、債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、主位的に、右<1>に係る評価の誤り等による損害として、原告泰子は四九億三八六四万四一三三円(幸郎分三九億二八〇五万六七八三円及び原告泰子固有分一〇億一〇五八万七三五〇円の合計額)、原告会社は一五億八八〇六万五八三五円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である平成七年四月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に、右<2>に係る原告らに割り当てられた東洋シャッター株式の値下がりによる損害として、原告泰子は二三億六六九四万三〇〇〇円(幸郎分一八億八二五九万九〇〇〇円及び原告泰子固有分四億八四三四万四〇〇〇円の合計額)、原告会社は七億六一一一万二〇〇〇円及び右各金員に対するはめ込み義務違反の後の日である平成四年一〇月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

第三基礎となる事実(証拠を挙げない事実は、当事者間に争いがない。)

一  当事者等

1  幸郎は、岩住サッシの元代表取締役であり、平成三年一二月二七日当時、同社の発行済株式の四八・九七五パーセント(一九五万九〇〇〇株)を保有する株主であったが(甲A六〇)、平成一二年五月二二日に死亡し、原告泰子が幸郎のすべての財産を相続した(弁論の全趣旨)。

2  原告泰子は、幸郎の妻であるとともに、岩住サッシの元取締役でもあり、平成三年一二月二七日当時、同社の発行済株式の一二・六パーセント(五〇万四〇〇〇株)を保有する株主であった(甲A六〇)。

3  原告会社は、建築資材及び家具の輸入、不動産の賃貸、管理等を目的とする株式会社であり、平成三年一二月二七日当時、岩住サッシの発行済株式の一九・八パーセント(七九万二〇〇〇株)を保有する株主であったもので、原告泰子が代表取締役を務めている(甲A六〇)。

4  被告アシストは、企業経営に関するコンサルティング等を業とする株式会社であり、平成三年当時、被告銀行の依頼を受け、多数の企業の買収・合併(以下「M&A」という。)に関する企業評価やコンサルティング業務等を手がけていた。

5  被告川口は、公認会計士であるとともに、平成三年当時、被告アシストの代表取締役であった。

6  被告福島は、公認会計士であるとともに、平成三年当時、被告アシストの取締役であった。

7  岩住サッシは、幸郎の祖父岩住卯三郎が大正元年に設立した岩住卯三郎商店を前身とし、幸郎の父岩住幸治郎が昭和二二年一月二八日に設立したスチール製サッシ等の製造販売を業とする株式会社であり、平成三年一二月二七日当時、資本の額は二億円、発行済株式総数は四〇〇万株の中堅企業であった(甲A五、三三)。

8  被告銀行は、銀行業を目的とする株式会社であり、平成二年頃、同社には、M&A業務等を専門的に扱う部所として、情報開発部(以下単に「情報開発部」という。)があった。

9  東洋シャッターは、昭和二一年一二月九日に設立された各種シャッター及びその他の建築用建具、建材の製造、取付け及び販売等を業とする株式会社であり、平成三年一二月二七日当時、資本の額は七五億八三二九万七〇〇〇円で、東京証券取引所及び大阪証券取引所の第一部に上場する会社であった(甲A六)。

二  被告アシストによる合併比率に関する調査報告書の作成

1  被告アシストは、岩住サッシと東洋シャッターの合併比率について調査し、被告銀行に対し、右調査結果を、平成三年八月九日、「I社・T社合併比率に関する調査報告書」(乙一、丙一・以下「第一レポート」という。)と題する書面にまとめて提出し、さらに、同月二〇日にも、「T社・I社合併比率に関する調査報告書」(乙二・以下「第二レポート」という。)を提出した。

2  右第二レポートには、次のような内容の記載があった。

(一) 岩住サッシの一株当たりの価値

<1> 簿価純資産   六億〇六二九万〇〇〇〇円

<2> 土地含み益  七八億五四六一万三〇〇〇円

<3> 借地権含み益  五億〇四六二万四〇〇〇円

<4> 有価証券含み益 一億六六一〇万〇〇〇〇円

<5> 営業権       六七一九万〇〇〇〇円

<6> 合計     九一億九八八一万七〇〇〇円

<7> 岩住サッシの発行済株式総数 二〇〇万〇〇〇〇株

<8> 岩住サッシ株一株の価値(<6>÷<7>) 四五九九円

(二) 東洋シャッターの一株当たりの価値

東洋シャッターは上場企業なので、東洋シャッターの一株当たりの価値はその市場価格で算定すべきである。

東洋シャッターの平成三年三月の月平均株価 一株三〇三〇円

(三) 合併比率

岩住サッシ株式一株に対し、東洋シャッター株式一・五二株

(三〇三〇…四五九九=一…一・五一七八=一…一・五二)

三  岩住サッシ及び東洋シャッターによる合併契約の締結

岩住サッシは、平成三年一二月三〇日、東洋シャッターとの間で、次の内容を含む合併契約(以下「本件合併契約」という)を締結して解散し、平成四年六月二九日、合併登記を了した(甲A五、一三・以下、右合併を「本件合併」という。)。

1  合併方式 東洋シャッターが岩住サッシを吸収する吸収合併方式

2  交付される株式 合併期日の岩住サッシの株主名簿に記載された株主に対し、その所有する岩住サッシ株式一〇〇〇株につき東洋シャッター株式七七五株を割り当てて交付する(第二レポートに比べ、割り当てられる東洋シャッター株式が半分になったのは、株式分割により、岩住サッシの発行済株式数が二〇〇万株から四〇〇万株になったためである。)。

3  合併期日 平成四年四月一日

第四争点

一  第一事件

1  被告アシストは、原告らに対し、不法行為責任を負うか。

2  被告川口は、原告らに対し、不法行為責任又は取締役の任務懈怠による責任を負うか。

3  被告福島は、原告らに対し、不法行為責任は取締役の任務懈怠による責任を負うか。

4  右1ないし3が認められるとして、原告らに生じた損害額はいくらか。

5  右4の損害と被告アシストの行為との間には、相当因果関係があるか。

二  第二事件

1  被告銀行は、原告らに対し、債務不履行責任又は不法行為責任を負うか。

2  右1が認められるとして、原告らに生じた損害はいくらか。

第五争点に対する原告両名の主張

一  争点一1(被告アシストの不法行為責任)について

1  被告アシストが本件合併契約に際し、岩住サッシ及び東洋シャッターの評価をした経緯は次のとおりである。

(一) 原告らは、自己の保有する岩住サッシの株式すべてを第三者に売却して現金を得ようと考え、平成二年六月一三日、被告銀行に対し、株式売却に関する一切の行為を委任し、同被告は、これを受任した。

(二) その後、岩住サッシは、東洋シャッターに対し、原告らの保有する岩住サッシの株式を購入するよう交渉したが、交渉は難航した。そのため、被告銀行は、平成三年七月頃、原告らに対し、岩住サッシの株式を売却することはあきらめて、代わりに、岩住サッシと東洋シャッターを合併させ、対価として東洋シャッターの株式の割当てを受けた方が税法上有利である旨告げて、株式売却方式から企業合併方式への方針転換を迫った。

原告らは、岩住サッシの株式を売却することにより現金を取得したいと考えていたが、大銀行である同被告が、企業合併方式を強く勧めたため、その言葉を信じ、同月、同被告に対し、岩住サッシと東洋シャッターとの合併に向けて、M&A業務を遂行するよう委託した。

(三) 被告銀行は、平成三年七月頃、被告アシストに対し、東洋シャッターと岩住サッシの合併比率の算定・評価を委託し、被告アシストは、これを受任して、同月八月頃、右委託に基づき、東洋シャッターと岩住サッシの合併比率について調査し、その結果を第二レポートにまとめて被告銀行に提出した。

(四) 被告銀行は、第二レポートを基に東洋シャッターと交渉し、その結果、岩住サッシは、東洋シャッターとの間で、平成三年一二月三〇日、本件合併契約を締結し、平成四年六月二九日、合併登記を完了した。

2  被告アシストの一般的注意義務の内容

(一) 被告アシストは、M&A専門のコンサルティング会社として高い評価を得ていたのであるから、合併比率の算定評価に当たっては、そのような評判にふさわしい専門家としての高度な注意義務を尽くす義務がある。

(二) また、被告アシストは、原告らがM&A業務を委託した被告銀行から本件合併契約の基礎資料となる合併比率の算定・評価を委託されたものであり、かつ、その算定・評価は本件合併契約に重大な影響を与えるから、杜撰な算定によって原告らを不当に害することのないよう、慎重かつ適正に合併比率を算定・評価する義務がある。

(三) 被告アシストは、被告銀行の依頼に応じて第二レポートを作成したとしても、その算定・評価が本件合併契約に重大な影響を与えることになることは容易に知り得たはずであるから、杜撰なレポートを作成した責任を免責されるものではない。

3  被告アシストの具体的注意義務違反

(一) 岩住サッシ所有の土地の評価に関して

株式会社大阪鑑定所による不動産鑑定によれば、岩住サッシの所有していた兵庫県尼崎市水堂町四丁目三番二一号の土地(以下「本件土地」という。)の時価評価額は九〇億四〇二六万八〇〇〇円である。

しかるに、被告アシストは、本件土地の時価を、わずか七九億〇七四二万四〇〇〇円としか評価しなかった。

被告アシストが本件土地の評価を実際よりも一一億三二八四万四〇〇〇円も低く算定したのは、本件土地につき、実測や実地見分をせず、測量士・調査士による測量調査も依頼せず、不動産鑑定士による正式な鑑定も依頼せず、基準地価も斟酌せず、取引事例も比較せず、単に近隣のわずか一地点の公示価格を参考にしただけという杜撰極まりない調査方法しか採らなかったためである。

(二) 岩住サッシの営業権の評価に関して

岩住サッシの営業権は一四億六七〇〇万円であるところ、被告アシストは、わずか六七一九万円としか評価していない。

被告アシストが右のとおり岩住サッシの営業権を不当に低く評価したのは、次の各点について評価することを怠ったからである。

(1)  原告会社の評価の欠落

原告会社と岩住サッシは互いに密接不可分に関連し合う会社であり、両社が一体となって「岩住グループ」を形成していたので、岩住サッシの営業権を評価するに当たっては、当然に原告会社についても評価する必要があった。

しかるに、被告アシストは、岩住サッシの営業権を評価するに当たり、原告会社を一切評価の対象としなかった。

(2)  岩住サッシの技術、ノウハウ、マーケットシェア、人材、ブランド、購買活動、コンピューターシステム、研究開発等の経営資源の評価の欠落

岩住サッシは、NTTグループの指名業者として、同社と四〇年にわたる継続的取引関係を有していたが、被告アシストは、このことについて何ら評価していなかった。

また、被告アシストは、岩住サッシの有する様々な経営資源(多数の熟練工や設計技師の存在、システム化された優れた技能、東洋シャッターがNTTグループとの取引関係を引き継ぐことによるシナジー効果など)についても何ら評価していなかった。

(三) 東洋シャッターの価値の評価に関して

合併比率は合併当事会社の価値を比較衡量して決すべきものであるから、岩住サッシの価値の算定と東洋シャッターの価値の算定は同一の評価基準を採るべきものである。仮に東洋シャッターの価値を株式市場の株価を参考にして評価することが許されるとしても、単純に一時期の月平均株価のみを評価の根拠とすべきではなく、同社の時価純資産額、株価の推移、東洋シャッター株式が値動きの激しい小型株であるという特殊性、同業他社の株価の動向等の諸事情を勘案して、適正な評価額を算定すべきである。

しかるに、被告アシストは、岩住サッシについては、その純資産額を算定した上、これを発行済株式総数で除した額を一株当たりの価値としているのに対し、東洋シャッターについては、同社の純資産額や株価の動向等については全く調査せず、同社が上場会社であるという理由だけで、単純に平成三年三月の月平均株価をもってその一株当たりの価値と算定した。

そのため、東洋シャッターの一株当たりの価値(単なる市場の株価ではなく、諸般の事情を考慮した実際の価値)が実際には一一五八円しかなかったにもかかわらず、被告アシストは、これよりも一八七二円も高い三〇三〇円と算定した。

二  争点一2(被告川口の不法行為責任又は取締役の任務懈怠による責任)について

1  不法行為責任

前記一記載のとおり、被告アシストは不法行為責任を負うが、被告アシストの右不法行為を実際に行ったのは、その代表取締役兼業務担当責任者であった被告川口であった。

よって、被告川口は、被告アシストと同様の内容の不法行為責任を負う。

2  取締役の任務懈怠による責任(商法二六六条の三)

被告アシストの代表取締役である被告川口が右のような不法行為をしたことは、同時に、同被告には、その職務を行うにつき悪意又は重大なる過失があったといわざるを得ないから、同被告は、商法二六六条の三の責任も負う。

三  争点一3(被告福島の不法行為責任又は取締役の任務懈怠による責任)について

1  不法行為責任

(一) 被告福島は、被告川口が右不法行為をした当時、被告アシストの取締役であったから、他の取締役である被告川口の業務執行について監督すべき義務があったことはいうまでもなく、被告川口が杜撰な報告書を作成しようとしている場合には、これを阻止し是正すべき注意義務があった。

しかるに、被告福島は、右注意義務を怠り、被告川口の不法行為を看過したから、原告らに対し、不法行為責任を負う。

(二) また、被告福島は、被告アシストが第二レポートを作成するに当たり前記一記載の不法行為をした際には、アシストの取締役としてその意思決定に参画したのであるから、この点においても不法行為責任を負う。

2  取締役の任務懈怠による責任(商法二六六条の三)

被告福島が、前記1(一)のとおり、被告川口の不法行為を阻止し是正すべき注意義務を怠り、これを看過した点は、その職務を行うにつき悪意又は重大なる過失があったといわざるを得ないから、被告福島は、原告らに対し、商法二六六条の三の責任をも負う。

四  争点一4(損害額)について

1  岩住サッシの株主全体の損害

岩住サッシの株主は、被告アシストが、岩住サッシの価値を不当に低く、東洋シャッターの価値を不当に高く評価したため、本件合併により多大な損害を被った。

その損害額は、岩住サッシの価値から本件合併によって割り当てられた東洋シャッター株式の価値を引いた額であり、その金額は、次のとおり七九億一〇二〇万円にも上る。

(一) 岩住サッシの価値

<1> 純資産(簿価)       六億〇六〇〇万円

<2> 営業権          一四億六七〇〇万円

<3> 不動産含み益       九二億九六〇〇万円

<4> ゴルフ会員権含み益     一億三一〇〇万円

<5> 合計          一一五億〇〇〇〇万円

(二) 割り当てられた東洋シャッターの株式の価格

<1> 東洋シャッターの一株当たりの価値 一一五八円

<2> 岩住サッシの株主が本件合併により取得した東洋シャッターの株式数 三一〇万〇〇〇〇株

<3> 右全株式の価値(<1>×<2>) 三五億八九八〇万〇〇〇〇円

(三) 損害額合計((一)-(二)) 七九億一〇二〇万〇〇〇〇円

2  原告両名の損害額

岩住サッシの平成四年三月三一日当時の発行済株式総数は四〇〇万株であり、そのうち、幸郎は一九五万九〇〇〇株(持ち株比率四八・九七五パーセント)、原告泰子は五〇万四〇〇〇株(持ち株比率一二・六パーセント)、原告会社は七九万二〇〇〇株(持ち株比率一九・八パーセント)をそれぞれ保有していた。

よって、原告両名の損害は、岩住サッシの全株主が負った損害の合計にそれぞれの持ち株比率を乗じた額となるから、次のとおりとなり、原告両名が少なくとも第一事件の請求金額以上の損害を被ったことは明らかである。

(一) 原告泰子 四八億七〇七〇万五七五〇円(幸郎からの相続分が三八億七四〇二万〇四五〇円)

(二) 原告会社 一五億六六二一万九六〇〇円

五  争点一5(相当因果関係)について

右四2の損害と被告アシストの具体的注意義務違反との間には、次のとおり、相当因果関係がある。

1  原告らは、被告アシストが被告銀行の紹介であり、公認会計士の集団でもあることから、当然に自らの責任をもって現況調査や不動産の正式な鑑定等第三の二1<1>ないし<5>について調査し、原告会社をも適正に評価した上で第二レポートを作成したと信じ、これを前提として合併交渉に臨んでいたのであり、正式な鑑定がなされていないことを認識しつつ合併交渉を進めたことはない。

2  被告アシストは、自らをM&Aの専門家と称し、これまでも被告銀行から度重なる依頼を受けていたので、自ら作成した評価書がいかに重要であるかを知っていたはずであるし、第二レポートの冒頭には、当該レポートの目的は、I社とT社の適正な合併比率を算定することにあると宣言しているのであるから、被告アシストとしても、第二レポートが合併の基礎資料となることを十分承知していたということができる。

3  なお、原告らは、平成三年一二月に至り、東洋シャッターの株価が下落を続けたので、被告銀行に対して合併条件の見直しを要求したが、聞き入れられず、結局、最終的な合併基準とされたのは、合併契約が締結される約三か月前である平成三年九月三〇日の東洋シャッター株の株価(二八七〇円)であった。

六  争点二1(被告銀行の債務不履行又は不法行為の成否)について

1  原告らと被告銀行との間の委任契約締結の経緯

(一) 岩住サッシと被告銀行は、四〇年以上も前から取引があったところ、被告大阪駅前支店(以下「被告支店」という。)の畑中和文(以下「畑中」という。)支店長は、平成元年頃から、幸郎らに対し、岩住サッシの会社売却を前提として、京都祇園のお茶屋、相撲、野球見物等の破格の接待を行った。

(二) 幸郎らは、平成二年五月二五日頃、被告銀行本店貴賓室において開かれた午餐会に招待され、被告銀行の江川正純専務取締役(以下「江川専務」という。)は、同席上で、「岩住サッシの幕引きについては被告銀行がお手伝いいたします。」と述べて、岩住サッシの「会社売却」事務を受任することを申し出た。

そこで、原告らは、同年六月一三日頃、被告銀行に対し、これを応諾し、原告らと被告との間で岩住サッシの会社売却事務について委任契約(以下「本件委任契約」という。)が成立した。

この時点での会社売却の意味は、原告らが保有する株式に加え、その余の株主らが保有する株式もとりまとめたうえ、岩住サッシの全株式を売却して現金化することであり、原告らは、その旨を被告銀行に伝え、同被告は、これを了解した。

(三) 本件委任契約の内容と被告銀行の基本的義務

会社売却を実現するための法的手段としては、全株式の譲渡のほか、営業譲渡や会社の合併等各種の方法が考えられ、また、現金による決済もあれば、現金に代わる物による決済もあり得る。

したがって、会社売却の方法如何によっては、取引相手や条件が変動することが予定され、その都度契約内容が順次変貌することがあり得る。

しかし、原告らが保有する岩住サッシ株式を手放すことにより相当の対価を得ることが本件委任契約の根幹であるから、被告銀行は、原告らに対し、具体的な契約内容の変貌にかかわらず、契約の趣旨に沿って会社売却事務を行うべき義務を負担し、たとえ原告らが保有する株式の現金売却依頼が結果的に岩住サッシと東洋シャッターとの合併に変貌したとしても、そのために原告らが契約当事者の地位から離脱したということにはならない。

(四) 被告銀行は、当初、企業買収を検討していた辰野株式会社(以下「辰野」という。)に対し、原告らの保有する岩住サッシ株式の売却交渉を行ったが、右交渉は結実しなかった。

その後、同被告は、東洋シャッターに対し、原告らの保有する岩住サッシの株式を購入するよう交渉したが、交渉は難航した。

そのため、同被告は、平成三年七月頃、原告らに対し、岩住サッシの株式を売却することはあきらめて、代わりに、岩住サッシと東洋シャッターを合併させ、対価として東洋シャッター株式の割当てを受けた方が税法上有利である旨告げて、株式売却方式から企業合併方式への方針転換を迫った。それまで、原告らは、岩住サッシの株式を売却することにより現金を取得したいと考えていたが、大手都市銀行である同被告が企業合併方式を強く勧めるため、その言葉を信じ、同月、同被告に対し、岩住サッシと東洋シャッターとの合併に向けて、M&A業務を遂行するよう委託した。

(五) 被告銀行は、原告らに対し、本件委任契約の条件として、次の二点を厳しく要求し、原告らは、これを承諾した。

(1)  東洋シャッターとの直接接触は、同被告がお膳立てするとき以外は一切まかりならない。

(2)  原告らのM&Aアドバイザー兼交渉代理人は同被告のみとし、他の銀行や証券会社などに依頼したり相談してはならない。

2  被告銀行と被告アシストの間の委任契約

被告銀行は、平成三年七月頃、被告アシストに対し、東洋シャッターと岩住サッシの合併比率の算定・評価を委託し、被告アシストは、これを受任し、同年八月頃、右委託に基づき、第二レポートを被告銀行に提出したが、第二レポートには、前記一3のとおりの問題点があった。

3  本件合併契約締結に至る経緯

(一) 原告らは、平成三年八月二八日、被告支店において、情報開発部の渋谷愛郎(以下「渋谷」という。)部員から、第二レポートを交付され、内容を検討したところ、土地の評価が公示価額でなされていることに気づいた。当時、公示価額は時価の七割程度の評価であったため、幸郎は、逆算すると岩住サッシの企業評価は約一二八億円になると考え、同年九月九日、当時の被告支店大島祥一(以下「大島」という。)支店長に対し、時価評価で行うよう申し入れた。

しかし、大島は、「アシストのこんないい評価がでたのは岩住さんにとって本当によかった。」「九二億の評価が正しい。」などと反論し、幸郎の言い分を全く聞き入れようとはしなかった。

原告らは、会社評価には全くの素人であること、被告銀行から東洋シャッターとの合併交渉については他人に相談してはならないと強く申し渡されていたことから、被告アシストの評価を信頼するしかないと考え、大島に対し、会社評価は九二億円でやむを得ないが、少なくとも役員退職金二億四〇〇〇万円及び被告銀行への手数料二億円は別枠とし、宝塚ゴルフクラブの会員権二口(一億六〇〇〇万円相当)も付け加えるよう依頼し、大島も明確にこれを了承したため、原告らは、この条件をもって被告銀行が東洋シャッターと合併交渉に臨んでくれるものと信じていた。

(二) 幸郎らは、平成三年一〇月一五日、大島から、合併のためのスケジュール及び手順を打ち合せる必要があるということで呼出しを受け、被告支店に赴いて大島及び渋谷と面談したところ、渋谷から、東洋シャッターとは総額九〇億円でセットしてあること、右九〇億円には退職金と手数料が含まれること、右の話が纏まったのは同年八月二〇日であることを告げられた。

幸郎は、右(一)の指示を出すより前に被告銀行が東洋シャッターと話をまとめていた上に、右(一)のとおり、原告の指示では、九二億円のほか、役員退職金、被告に対する手数料及び宝塚ゴルフクラブの会員権二口を付加することを最低条件にしていたのに、渋谷が無断で九〇億円で話をつけたことに激怒し、渋谷を叱責した。

しかし、渋谷は、自分の考えでも退職金と手数料の合計四億四〇〇〇万円は原告らが負担するもので買収金額から控除するのが筋であること、東洋シャッターの取締役会で三〇〇万株と決まったところ、同社の岡田敏(以下「岡田」という。)社長の鶴の一声で一〇万株の上積みがなされたこと、ゴルフ会員権を出すなら退職金から引くことを幸郎に告げ、さらに、「これでセットしてきたので、オーケーしてもらう以外にない。これが嫌なら話は壊れます。」と、まるで脅しともとれるような回答をした。

幸郎は、激怒するとともにあきれた思いで「もう東洋(シャッター)との話は中止だ。」と大声で叫び、幸郎らは、その席を立った。

(三) 原告らは、場合によっては東洋シャッターとの合併を中止せざるを得ないと思い始めていたところ、渋谷や大島は、原告泰子に対し、一部上場会社の株式は現金と同じであり、売りたいときにはすぐに売れるなどと申し向けて、原告泰子を籠絡してきた。

被告銀行の右の言い分は、原告らにとって耳障りの良いものであったが、現実の取引としては、小型株である東洋シャッター株式を大量に市場で売却できるはずのないことは株式取引上の常識である。しかし、当時、原告らは、全く株式取引実務に無知であり、かつ、被告銀行から何ら実態について説明を受けていなかったため、右言い分を素直に信じていた。

被告銀行の原告泰子に対する接触により、合併中止を覚悟していた幸郎の意思も揺らぎ、幸郎は、条件の変更さえあれば東洋シャッターとの合併を再度検討してみてもいいという気持ちになり、平成三年一〇月二九日及び同年一一月三〇日に、大島らと面談した。

しかし、条件変更を再三主張する原告らに対し、大島らは、右言い分を繰り返し、話し合いは事実上、膠着状態に陥った。

大島は、このような面談を続けていた頃、原告らに対し、合併の覚書に調印してくれるよう依頼した。

これに対し、幸郎は、合併条件も決まっていないのに覚書に調印する必要はないとして、一旦は断った。しかし、幸郎は、大島から、覚書は単に公正取引委員会に提出するものであり、いつでも破棄できるとの説明を受けて、覚書に調印しても別段の害はなく、むしろある程度交渉の場を継続することによって今後の交渉の主導権を握ることもできるかもしれないと判断し、同月一五日、覚書に調印した。

この時点で合併が事実上合意に達していないことは、右覚書の幸郎の署名が岩住サッシのゴム印ではなく、幸郎の自筆で行われたことからも明らかである。

(四) 原告らは、右覚書作成後も東洋シャッターの株価が下落を続けたので、平成三年一二月に至って、被告銀行に対し、合併条件の見直しを要求するとともに、同被告が以前から確約していた株式のはめ込み先の斡旋についても確認を求めたが、同被告は、全く原告らの要求を聞こうとはしなかった。

(五) 幸郎は、平成三年一二月中旬頃、大島から、第二回目の覚書に調印してもらいたい旨の連絡を受けた。大島は、右覚書は、新聞発表用であり、あくまで仮契約であっていつでも取り消せると断言したので、原告らは、安易にその言を信じて、同月二四日、第二回目の覚書に調印した。

幸郎は、事前に、大島から、調印後幸郎がすぐに社内発表を行い、東洋シャッターが記者発表を行うと言われていたため、調印後、直ちに岩住サッシに戻り、今後の交渉如何では振出しに戻るかもしれないとの留保付きで社内発表を行った。

ところが、幸郎は、同日午後六時頃、突然、大島から、ヒルトンホテルに呼び出され、「依頼書もないまま記者発表したので大問題になっている。本日中に署名してくれ。」と語気強く迫られた。

幸郎は、この頃には、被告が東洋シャッターの立場ばかりを優先して主張し、原告らの要請を何ら受け入れようとしなかったため、大島に対し、覚書はいつでも取り消せると言ったから調印したにすぎず、今後、合併の条件を煮詰めなければならない旨を告げて、依頼書への署名を拒んだ。

しかし、大島は、「依頼書がなければ合併を認めるわけにはいかない。記者発表を済ませた後にキャンセルすることになれば損害賠償の問題だ。」と述べて、態度を豹変させ、依頼書への署名を強く迫った。

このため、幸郎は、ついに、同日深夜、これに屈して、依頼書に署名押印した。

なお、被告銀行が依頼書作成を平成三年一二月二〇日としているのは、全くの誤りである。

(六) 被告銀行の言を信じての覚書の作成及びこれに伴う新聞発表、深夜にわたる強引な依頼書の徴求により、原告らの退路は全く断たれ、同月三〇日の合併調印の日を迎えた。

今さら無駄な抵抗もできない原告らは、第三の三記載のとおり、本件合併契約を締結し、平成四年六月二九日、合併登記を完了した。

(七) その後も、原告らは、被告銀行に対し、株価下落の対策を要請したところ、平成四年三月二五日、同被告の小松健一専務取締役(以下「小松専務」という。)が、原告らに対し、株価は下がっているが、同被告が責任をもってはめ込み先を斡旋するので心配は要らないと約束するに至った。

しかし、実際に本件合併が成立すると、被告銀行は、東洋シャッターの代理人のごとく振る舞って、右約束を全く履行せず、原告らの履行請求を無視し続け、ここにおいて、原告らも被告会社にいわば騙された形で合併させられたことに気づいた。

4  被告銀行の債務不履行責任又は不法行為責任

被告銀行の本件委任契約における注意義務は、<1>被告銀行の一流大手都市銀行という社会的地位と信頼の高さ、<2>本件合併の規模の大きさ・複雑さ、<3>委任報酬額の巨額さ、<4>本件合併の社会的影響の大きさ、<5>原告らに東洋シャッターと直接接触することや他の銀行等に相談することを禁じていたことなどからすれば、以下のような高度なものとなる。

しかるに、被告銀行は、これを怠り、原告らに対し、多大な損害を与えた。

(一) 合併比率決定上の注意義務違反

(1)  合併比率を決するに当たっては、当該企業の価値の評価が極めて重要な基準となるから、被告銀行には、岩住サッシと東洋シャッターの価値を適切に算定評価する義務がある。

しかるに、被告銀行は、被告アシストと通謀し、同被告に極めて杜撰な第二レポートを作成させて、岩住サッシの価値を不当に低く、東洋シャッターの価値を不当に高く評価し、これを基にして東洋シャッターとの合併交渉を行った(仮に、被告銀行と被告アシストとの間に通謀がなかったとしても、被告アシストは、被告銀行の履行補助者の地位にあるから、被告アシストの第二レポート作成過程での故意又は過失は、被告銀行のそれと同視される。)。

また、合併するためには長期間の交渉が必要となるので、その間の株価の変動は不可避であり、特に、平成三年九月頃は、バブル経済の破綻が明確化し、株価が全般的に下落傾向にあった時期であったから、被告銀行としては、合併の基準となる東洋シャッターの株価を早期に確定すべきではなく、合併契約締結直前に、その時点での同社の株価の推移や業績等を勘案して、最終的な合併基準額を決すべきであり、また、原告らに対し、そうするように助言・指導すべきであったにもかかわらず、被告銀行は、合併契約が締結される三か月も前である同年九月三〇日の東洋シャッターの株価(二八七〇円)を最終的な合併基準とし、その後の株価の変動などを合併比率に盛り込まず、原告らに対しても、何らの助言・指導をしなかった。

(2)  東洋シャッター株式は、いわゆる小型株であるため、市場で大量に換価することは困難であり、また、少しずつ換価するとしても、そのたびに株価が下落することは必然であるから、被告銀行は、このことも見込んだ上で適切な合併比率を決定する義務があった。

しかるに、被告銀行は、合併比率算定につき、この点について一切考慮しなかった。

(3)  岩住サッシは、東洋シャッターとの合併に際し、幸郎に役員退職金二億四〇〇〇万円を、被告銀行に手数料一億九四六三万九一〇〇円を支払ったが、これらは岩住サッシの損金であり、右特別損失については還付金があるので、右還付金は岩住サッシの含み益として計算すべきである。

したがって、原告らは、右還付金相当額についても東洋シャッター株式を割り当てられるべきであるのに、被告銀行は、岩住サッシの純資産に右還付金相当額を算入しなかった。

(二) 合併中止申出に対する不当拒絶

原告らは、平成三年一二月以降、被告銀行に対し、再三にわたって合併条件の見直し又は補償措置をとるよう要求したにもかかわらず、被告銀行は、右3(五)のとおり述べて原告らの申出を拒絶し、不当な合併比率のまま、本件合併契約をなさしめた。

(三) 換金義務違反

原告らは、もともと会社売却による現金取得を目的としていたので、被告銀行の推進した合併方式を即座に受け入れる体制にはなかった。しかるに、被告銀行は、平成三年五月頃には、原告らに対し、原告らが東洋シャッターとの合併によって取得する同社株式のはめ込み先を斡旋することを約束し、これを受けて、原告らは、岩住サッシ株式の現金化の方策として、株式売却方式から合併方式に転換することを承諾した。

また、実際にも、東洋シャッター株式は小型株であり、一度に市場に出せば株価が暴落し、買手を見つけるのも困難であったから、被告銀行の斡旋がなければ換金することができなかったもので、同被告としても、当時から、そのことは十分に認識していた。

したがって、被告銀行には、原告らに対し、右合意に基づく東洋シャッター株式のはめ込み先を斡旋する義務があり、岩住サッシは、平成三年一二月三〇日には本件合併契約を締結し、原告らは、平成四年七月一日には、同被告から東洋シャッターの株券を受領しているから、同被告は、遅くとも同年九月三〇日までには、その当時の価額で右義務を履行することができたにもかかわらず、これを怠り、同社の株価が下落する事態を傍観し、漫然と放置した。

七  争点二2(原告両名の損害額)について

1  右六4(一)・(二)による損害額

(一) 適正評価義務違反による損害額

本件合併契約において、岩住サッシの価値は九一億九八八一万七〇〇〇円と評価された上、東洋シャッター株式の一株当たりの価値が二八七〇円と算定されたため、岩住サッシの株主は、東洋シャッターの株式を合計三一〇万株しか割り当てられなかった。

しかし、実際の岩住サッシの価値は、前記四1のとおり、一一五億円もあったのであり、他方で、東洋シャッター株式の一株当たりの価値は一一五八円しかなかったのである。

したがって、岩住サッシの株主は、一一五億円から三五億八九八〇万円(一一五八円×三一〇万株=三五億八九八〇万円)を引いた七九億一〇二〇万円の損害を被ったことになる。

(二) 還付金未算入による損害額

岩住サッシが支払った幸郎の役員退職金二億四〇〇〇万円及び被告銀行の手数料一億九四六三万九一〇〇円についての還付金は、次のとおり、合計一億一〇三三万四五二四円となるはずであったから、右同額が岩住サッシの株主が被った損害である。

(1)  国税還付金 九一八七万六一七四円

(2)  府民税還付金 四六八万五五五〇円

(3)  市民税還付金 三九六万八四〇〇円

(4)  事業税還付金 九八〇万四四〇〇円

(三) 原告両名の損害額のまとめ

(1)  原告泰子の損害額

<1> 岩住サッシと東洋シャッターの価値の評価の誤りによる損害額 四八億七〇七〇万五六五〇円(幸郎からの相続分三八億七四〇二万〇四五〇円)

<2> 還付金相当額の未算入による損害額 六七九三万八四八三円(幸郎からの相続分五四〇三万六三三三円)

<3> 合計 四九億三八六四万四一三三円(幸郎からの相続分三九億二八〇五万六七八三円)

(2)  原告会社の損害額

<1> 岩住サッシと東洋シャッターの価値の評価の誤りによる損害額 一五億六六二一万九六〇〇円

<2> 還付金相当額の未算入による損害額 二一八四万六二三五円

<3> 合計 一五億八八〇六万五八三五円

2  右六4(三)による損害額(換金義務違反による損害額)

被告銀行は、右六4(三)のとおり、遅くとも平成四年九月三〇日までには、原告らに対するはめ込み先の斡旋が可能であったところ、同時点の東洋シャッター株式の終値は一株一三四〇円であり、口頭弁論終結時における終値(平成一二年七月二一日の終値と同じと仮定する。)は一株一〇〇円であるから、その差額が原告らに生じた損害となる。

原告泰子は一九〇万八八二五株(幸郎からの相続分が一五一万八二二五株)を保有しているから、同人に生じた損害は二三億六六九四万三〇〇〇円、原告会社は六一万三八〇〇株を保有しているから、同社に生じた損害は七億六一一一万二〇〇〇円である。

第六争点に対する被告アシスト及び被告川口の主張

一  争点一1・同2(被告アシスト不法行為責任及び被告川口の不法行為責任又は取締役の任務懈怠による責任)について

1  被告アシストは、次のとおり、被告銀行から送られた資料等に基づき、指定された期間内に、依頼された算定方法で適正・妥当な第二レポートを作成したのであり、何ら違法な点はない。したがって、被告アシスト及び被告川口は、原告らに対し、不法行為等の責任を負わない。

(一) 平成三年七月下旬

被告銀行から岩住サッシと東洋シャッターとの合併比率の調査の依頼があり、同年八月一〇日頃までに調査報告書を作成してほしいといわれた。

(二) 被告銀行からFAXで送られてきたもの

(1)  岩住サッシの平成三年三月末期の決算書(七月二九日)

(2)  東洋シャッターの不動産リスト(七月三〇日)

(3)  岩住サッシの平成三年三月末期の税務申告書(七月三〇日)

(4)  岩住サッシ歌島工場の住宅地図(七月三一日)

(5)  岩住サッシ歌島工場の土地・建物の登記簿謄本(八月一日)

(6)  会社四季報の東洋シャッター・三協アルミニウム工業・日本アルミニウム工業記載部分(八月二日)

(7)  東洋シャッターの株価グラフ(八月五日)

(三) 平成三年八月九日

(1)  被告銀行に第一レポートを提出した。

(2)  第一レポー卜中、土地・借地権の評価については、被告銀行から、公簿面積・公示価格で評価するよう依頼があった。

(3)  第一レポー卜中、営業権の評価については、従来被告銀行から依頼のあった案件で採用していた評価方法によった。

(4)  第一レポート中、東洋シャッター株式の評価については、被告銀行から、平成三年三月の権利落ち後の平均で評価するよう依頼があった。

なお、被告アシストは、評価基準日を同月三一日としているので、その後の株価の動向を考慮に入れる必要はないが、第二レポートには、注意書として、「尚、T社株式評価額の変動により、合併比率も変動する事には注意を要する。」と記載した。

(四) 平成三年八月二〇日

被告アシストは、被告銀行から、原告らとのやりとりを踏まえ、第一レポー卜記載の時価純資産方式のみにより算出した合併比率の妥当性の検討を依頼され、その妥当性があると判断したので、第二レポートを提出した。

(五) 平成三年一〇月二四日

被告銀行から、上場会社が非上場会社と合併する場合に証券取引所に提出する営業概況書等について問い合わせがあったので、その書式等を送った。

(六) 平成三年一〇月三一日

被告銀行から、役員退職慰労金の問い合わせがあった。

(七) 平成三年一一月二五日

被告銀行に対し、合併法人の一〇パーセント課税についての法令を送付した。

(八) 平成三年一二月二六日

被告銀行から合併契約書(案)が送られ、合併差益についての問い合わせがあったので、その資料を送付した。

(九) 平成四年二月二五日

被告銀行からの連絡で、岩住サッシへ二五七万五〇〇〇円の報酬請求書を送り、三月三一日、岩住サッシから同金員を受け取った。

2  右1で述べた依頼された算定方法で適正・妥当なとの意味は、様々な評価方法がある中で、被告銀行の依頼のとおり、本件土地の時価については公簿面積・公示価格により、営業権の評価は従来被告銀行から依頼のあった案件で採用していた方法により、東洋シャッターの株価は平成三年三月の権利落ち後の平均によったが、第一及び第二レポート作成の目的等から、その評価方法を採ることがその旨を明示することにより適正・妥当(この判断は被告アシストがした。)であるとの意味である。

二  争点一5(相当因果関係)について

原告らは、第二レポートを読み、その事実(例えば、本件土地については、実測や実地見分、測量士・調査士による測量調査、不動産鑑定士による正式な鑑定等がされておらず、また、岩住サッシの営業権の評価においても、システムハードウェアーを直接の評価の対象にしていないこと)を認識し、東洋シャッターの株価については、合併契約締結時の三か月前の平成三年九月末日の株価を合併基準として、同社と合併交渉を進めたのであるから、原告らが主張する被告アシストの具体的な注意義務違反の事実と原告らが主張する損害との間には、相当因果関係がない。

第七争点に対する被告福島の主張

一  争点一1・同2・同5について

被告アシストの主張を援用する。

二  争点一3(被告福島の不法行為責任又は取締役の任務懈怠による責任)について

1  被告福島は、被告アシストにおいて、M&Aに関する業務には関与していなかった。

2  取締役会での報告事項か否かについて

(一) 第二レポートは、被告川口が被告アシストの業務の一環として作成したものである。

(二) 第二レポートの作成は、被告アシストの業務の一つとしてなされたものであり、被告アシストにおける取締役会の決議事項でもなければ報告事項でもない。

第八争点に対する被告銀行の主張

一  争点二1(被告銀行の債務不履行又は不法行為の成否)について

1  被告銀行は、岩住サッシから本件合併契約に関する委任を受けたのであり、岩住サッシの株主にすぎない原告らに対し、法的責任を負う余地はない。

2  第二レポートは、合併比率に関する報告書のとおり、適正・妥当なものである。

3  被告銀行は、原告らに対し、次のとおり、東洋シャッターとの交渉の経緯を逐一報告した上で、原告らの了解を得て、本件合併を仲介したものであり、何ら違法な点はない。

(一) 原告らが被告銀行に岩住サッシの会社売却を依頼した経緯

(1)  原告らは、被告銀行被告支店に、幸郎の高齢、健康不安と後継者不在を理由として、岩住サッシの「会社売却」の話を持ち込み、平成二年四月二四日には、情報開発部がこの案件を担当することになった(主たる担当者は畑中支店長であった。)。

原告らの当時の売却希望額は、一〇〇億円(税引き後の手取見込額は五〇億円)であった。

(2)  大島は、平成二年六月八日、被告支店支店長に着任し、同年七月一五日、情報開発部の前田部長とともに、幸郎から、ゴルフの接待を受けた。

(3)  被告銀行は、平成二年九月一三日 岩住サッシが増資したことを知り、同年一〇月三日、原告ら及び岩住サッシの顧問である甚田隆康(以下「甚田」という。)税理士と面談し、課税等の増資の問題点について検討を行い、増資の適否の問題が生じることを危惧し、岩住サッシ売却の話を進めるのを躊躇していたところ、同年一〇月一九日、原告らと甚田から、増資の問題は原告側で処理するので岩住サッシの売却を進めるよう依頼された。

(4)  被告銀行は、平成二年一一月二日、原告らに対し、同被告に対する依頼書に署名捺印するよう求めたが、原告らは、「案件が進んでから」と述べて、右依頼書を提出しなかった。

(5)  被告銀行は、平成二年一一月七日、原告らの了解を得て、辰野に対し、一〇〇億円の価格を提示して、岩住サッシ買収の話を持ち込んだところ、辰野から、岩住サッシ全株式の買収であれば検討するとの回答を受けたので、幸郎が右株式の取りまとめに努力することになったが、平成三年二月、幸郎は、弟達が保有する株式の買収に失敗し、弟達は、第三者に対して直接売却するとの意向を示した。

そこで、被告銀行は、引き続き、辰野に対し、岩住サッシの買収の交渉を続け、同年三月一八日、辰野側が岩住サッシの工場見学に訪れ、幸郎自身が種々の説明を行ったものの、同年五月二八日には、辰野から、最終的に岩住サッシの買収を断念する意向が示された。

(二) 本件合併契約に至る経緯

(1)  平成三年五月一五日

日本経済新聞に東洋シャッターが、株式会社オーシマ(以下「オーシマ」という。)を吸収合併する旨の記事が掲載され、これを見た幸郎から被告銀行に連絡があったこともあって、情報開発部は、早速、情報収集に着手した。

(2)  平成三年五月二一日

被告銀行は、東洋シャッターが適当な合併相手があれば更なる多角化をも検討する用意があることを掴んだので、大島支店長が幸郎にその旨を連絡した。

これを受けて、幸郎は、被告銀行に対し、オーシマと同様に東洋シャッターと合併した場合の手取額を試算するとともに、合併方式によった場合の利害損得についても教えてほしいと依頼した。

(3)  平成三年五月二八日

被告銀行は、原告らに対し、次の点について説明した。

<1> 株式の売却と合併との差異。

<2> 合併に際しての岩住サッシ株の評価総額は、最終的には東洋シャッターとの力関係によっても上下するが、その範囲は八〇億円から三億円と予想されること。

<3> 株式の換金については、株価下落等の可能性等も考慮しておくべきこと。

<4> 株式数が多い場合には、売却が難しいこと。

被告銀行の右説明の結果、幸郎らは、合併による上場株式取得には大きな税制上のメリットがあることを知り、大変喜んで合併方式に傾いた。

幸郎は、右<4>について、「事業を引き受けてもらうのが一番であり、合併で取得する株式の処分にはさほどこだわらない。」と発言し、むしろ自分の方で検討するとの意向であった。

被告銀行は、原告らに対し、依頼書の提出を依頼したが、前記(一)(4) と同様の理由で断られた。

(4)  平成三年五月二九日以降

被告銀行は、原告らとも十分協議のうえ、東洋シャッターと接触するようになった。

(5)  平成三年六月一〇日

被告銀行は、幸郎に対し、合併比率算定の諸方法について説明を行うとともに、その算定作業には公認会計士等の専門家の関与が必要であると指摘し、適当な専門家の心当たりがなければ被告アシストを紹介するので同社に依頼してみてはどうかと告げたところ、幸郎は、同被告に依頼して欲しいと回答した。

(6)  平成三年六月一七日

被告銀行は、幸郎らに対し、合併までの大まかなスケジュール等を説明するとともに、幸郎らが保有していた原告会社の株式を先に東洋シャッターに譲渡し、その後に合併を行う案を提案して、幸郎らの承諾を得た。

(7)  平成三年六月二四日

被告銀行は、幸郎ら及び甚田と合併スケジュールの打ち合わせを行い、交渉の進展に伴い必要となる決算書類や税務申告書等の資料の提出を求めた。

(8)  平成三年七月二六日

被告銀行は、前記(5) の幸郎らの了解に基づいて、被告アシストに対し、岩住サッシと東洋シャッターの合併比率を検討するためのレポートの作成を依頼した。

(9)  平成三年七月三一日

被告銀行は、幸郎に対し、近く被告川口らとの面談の機会を設けたいと申し入れた。

幸郎は、被告銀行の右申出を拒否し、「岩住サッシの従業員に動揺を与えてはいけないので(被告川口には)会社には来てほしくない。必要な連絡などは銀行の方でやって欲しい。」と述べた。

被告銀行は、原告らに対し、依頼書の提出を要請したところ、幸郎は、弁護士に相談すると述べて、用紙を持ち帰った。

(10) 平成三年八月九日

被告銀行は、被告アシストから第一レポートが提出されたので、これを原告らに届け、甚田も交えて、合併比率の交渉方針について打ち合わせを行った。

その際、被告銀行は、第一レポートの合併比率が一対〇・八ないし一・三ということだったので、幸郎及び原告泰子に対し、交渉の目処は一対一程度でどうかと打診した。

これに対し、原告泰子は、「手取額が六〇億円を割っては困るので、一対一・二以上でなければ合併しない。」と言い、幸郎も、これに同調した。

被告銀行は、一対一・二が合併比率の中心になるようなレポートを作ってもらえるかどうか被告アシストに打診してみると発言し、結局、被告アシストに、時価純資産方式(第一レポート中、合併比率が二番目に高い算定方式)で調査報告書を作ってもらえるかどうか相談してみるということになった。

その後、被告川口から、時価純資産方式により、一対一・五二という合併比率の報告書の作成が可能であるとの回答があり、第二レポートが作成された。

(11) 平成三年八月二〇日

被告銀行は、東洋シャッターに第二レポートを示して、合併比率に関する具体的交渉を開始した。

(12) 平成三年九月九日

原告らは、急いで合併を進めたい意向であったが、被告銀行は、同年一〇月一日に行われるオーシマとの合併による東洋シャッターの株式の価額変動の可能性と合併により取得する株式の売却に伴う諸問題を検討する必要性を指摘し、交渉は同年一〇月以降の方がよいと助言して、原告らの了解を得た。

(13) 平成三年一〇月四日

東洋シャッターの関係者が岩住サッシの工場見学を行い、その際、両社の社長も直接面談した。

(14) 平成三年一〇月一四日

東洋シャッターから、次のような回答があった。

<1> 合併比率は一対一・五でもよい。

<2> 岩住サッシの株主への交付新株数は、報告書の岩住サッシの会社評価額九一億九八〇〇万円を東洋シャッターの株価三〇三〇円で除し、端数を切り捨てた三〇〇万株を予定している。

これを聞いた原告らは、「一刻も早くやりましょう。」と述べた。

(15) 平成三年一〇月一六日

甚田より、原告らの意向として、依頼書の文言中次の三点について修正の申出がなされた。

<1> 依頼人株主を全株主とせず、原告ら三名に限定すること。

<2> 弁護士・会計士に支払う費用は被告銀行の負担とすること。

<3> 会社及び依頼人株主が自己責任で取引を行い、被告銀行には責任がないことを確認する旨の条項を削除すること。

これに対し、被告銀行は、<1>は応諾する、<2>は応諾できない、<3>の右条項は外せないが、文言を検討する用意はあると答えた。

(16) 平成三年一〇月一八日

原告らは、第二レポート中の本件土地の評価が公示価額を基にしていることに不満を漏らし、被告銀行に対し、「公示価額は、通常、時価の七割程度に設定されていると聞いているので、本件土地の時価は一二〇億円(八四億円÷〇・七=一二〇億円)位になるはずであり、その含みを考慮した岩住サッシの評価は一一〇億円以上になる。」と述べて、合併比率を見直すよう再交渉するように求めてきた。

被告銀行は、東洋シャッターに対し、原告らの意向を伝えたが、これに対し、東洋シャッターは、一対一・五という比率は岩住サッシにとって不利ではないはずだと回答してきた。

(17) 平成三年一〇月二一日から同月二九日まで

被告銀行は、原告らに対し、次の諸点を指摘し、それでも納得できないのであれば、正式な不動産鑑定を求める以外にないことを説明した。

<1> これまでの経緯に照らすと、岩住サッシ側がこれまでよりもさらに自己に有利な合併比率を持ち出して主張するのは信義則上穏当とは言い難いこと。

<2> 平成三年一〇月頃は、土地の時価と公示価額との間には大きな開きはなく、むしろ公示価額の方が高くなっているケースも少なくない実状にあること。

<3> 現に、複数の不動産取引業者からの聞き取りによれば、本件土地の価額は坪当たり二〇〇万円(全体で七二億八〇〇〇万円)であり、住銀モーゲージ株式会社の平成三年四月時点での本件土地の担保評価も坪当たり一六〇万円(全体で五六億六五〇〇万円)となっていたこと。幸郎からは、これといった反論はなく、同席していた甚田は、鑑定をしてみるとの発言をしたが、その後結果の報告はなかった。

また、幸郎から、次のような新たな申出があった。

<1> 会社の評価自体はおおむね第二レポートのとおりで仕方ないが、別途、幸郎の退職金二億四〇〇〇万円及び被告銀行への報酬等の合併費用約二億円は岩住サッシから支払うこととし、その合計約四億四〇〇〇万円は岩住サッシの会社評価から控除しないことにしてもらえないか。

<2> 東洋シャッターの株価を見直してもらう余地はないか。

(18) 平成三年一〇月三〇日

東洋シャッターから、次のような妥協案が出された。

<1> 東洋シャッターとしては、合併に際して発行する新株数を確定してもらう必要があるので、今後は合併比率よりも原告らに交付する株式数で話を詰めてもらいたい。

<2> 幸郎への退職金や合併費用が岩住サッシから流出しないのであれば、岩住サッシの会社評価は約九二億円のままとし、東洋シャッターの直近の中間決算期である平成三年九月末日の株価二八七〇円を基準にして、上限三二〇万株の範囲においてできるだけ増やすことを役員会に諮ってみてもよい。

<3> 幸郎への退職金や合併費用が岩住サッシから流出するのであれば、交付新株は三〇五万株とせざるを得ない。

(19) 平成三年一一月七日

東洋シャッターは、次のような最終条件を提示し、岩住サッシ側がこれに応じないのであれば合併は断念する旨の決意を伝えてきた。

<1> 合併比率は一対一・五五とする。

<2> 合併交付新株数は三一〇万株とする。

<3> 右比率等は、幸郎への退職金二億四〇〇〇万円及び合併費用約二億円の支払とは関係ないものとする。

(20) 平成三年一一月八日

原告らは、被告銀行に対し、「東洋シャッターの案を基本的に受け入れるが、裏金でも何でもいいからあと一億円追加してほしい。また、岩住サッシ所有の宝塚ゴルフクラブのゴルフ会員権を低額で幸郎に譲渡してほしい。」と申し入れてきた。

(21) 平成三年一一月一三日

東洋シャッターから、追加の一億円は出せないが、ゴルフ会員権の方は会計監査人の是認する額の範囲内であれば退職金の一部に含めて極力低額で譲渡することにしてもよいとの回答があった。

(22) 平成三年一一月一五日

合併に関する覚書を締結する運びとなった。

(23) 平成三年一一月二七日から同年一二月三日の間

被告銀行は、幸郎に対し、再度、依頼書の提出を要請した。

折衝の過程で、依頼書における岩住サッシの会社売却の態様は、当時の実情に合わせて、東洋シャッターとの合併に限定されるとともに、依頼書5項(2) では、合併を前提とした報酬の支払時期も明定され、その他の条項も前記(15)の協議を踏まえた表現に改められた。

(24) 平成三年一二月四日

甚田は、被告銀行に対し、幸郎は東洋シャッターの株価低下等に強い不満を抱いていて、合併中止も考えており、依頼書は提出しない旨の連絡をした。

(25) 平成三年一二月二四日

原告らは、被告銀行に対し、次の点について依頼書の修正を申し出た。

<1> 被告銀行への依頼事項として、「弊社及び依頼人株主の意向を十分理解した上での相手方との交渉」を追加すること。

<2> 岩住サッシ及び原告らの守秘義務に関し、右依頼書2項ただし書(「但し、貴行も同様の義務を負うこと、相手方に対しても同様の義務を負わせること、且つ、貴行及び相手方の双方がそれぞれの義務を履行することを条件とします。」)を追加すること。

<3> 岩住サッシ及び原告らの自己責任文言につき、「貴行又は相手方に故意又は過失なき限り」という文言を挿入すること(右依頼書3項)。

<4> 岩住サッシの実費の負担に関し、「弊社が事前に承認したものに限り」との文言を挿入すること(右依頼書5項(3) )。

<5> 右依頼書7項(「本件に係わる諸手続き完了後も、貴行に商業銀行として可能な限り依頼人株主の役に立つよう努力することを依頼します。」)を追加すること。

被告銀行は、右申出を受諾することにして文案を作成し、原告らに示したところ、原告らは、弁護士にFAXを送り、指示を仰いだうえで、右<1>ないし<5>のとおり、追加・挿入された依頼書(甲A一五、乙五一・以下「本件依頼書」という。)に署名押印した。

東洋シャッターとの接触は平成三年五月二九日以降に開始することになっていたことから、被告銀行は、原告らの了解を得て、本件依頼書の作成日を平成三年五月二九日とした。

4  小松専務と原告らとの面談の経緯は、次のとおりであり、小松専務が原告らに対し、はめ込み先を斡旋する旨断言したことはない。

また、仮に被告銀行が本件依頼書7項に基づいてはめ込み先斡旋義務なるものを負うとしても、右義務はあくまでも時価による売却を念頭においた努力義務であって結果を約束するものではないし、原告らは、一株当たり二八七〇円という高値による一括買取に固執し、時価による売却を希望していなかったから、右状況の下では、被告銀行にははめ込み先の斡旋について努力する義務すら存しない。

(一) 平成四年三月一七日

幸郎は、渋谷及び大島に対し、合併により取得予定の東洋シャッター株式の高値買取の要求をしたが、両者ともこれを拒絶した。さらに、幸郎が大島に対し、責任のある人に会いたいと述べたので、情報開発部本部長である小松専務が面談することになった。

(二) 平成四年三月二五日

幸郎は、被告銀行に対し、申入書を持参して、原告らが交付を受ける東洋シャッターの株式について、一株当たり二八七〇円での一括買取りを求めたが、小松専務は、損失補填の要求は受けられないとして、同書の受取りを拒否した。

(三) 平成四年三月二七日

被告銀行は、平成四年三月二六日現在、東洋シャッター株式の一株当たりの株式価額が合併比率算定の基準とした平成三年九月三〇日の株式価額に比して大幅に下落していることを指摘した上で、「貴行において、依頼人株主の心中を充分に推察いただき、合併後も平成三年五月二九日付の依頼書の通り商業銀行として可能な限り依頼人株主の役に立つよう努力することを依頼します。」と記載した被告銀行が受領することが可能な文書案を作成し、原告らの顧問である上野博明(以下「上野」という。)公認会計士を通じて、幸郎に交付したが、結局、幸郎からは同文書の提出はなかった。

第九証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第一〇当裁判所の判断

一  認定事実

第二の三の事実に、証拠(甲A二の1・2、三の1・2、五、六、一一ないし一三、一五、一六、一七の1、一八ないし二三、二四の1ないし5、二五ないし二八、二九の1ないし4、三三、三四の1ないし4、三五、三七、三八、三九の1ないし3、四〇の1・2、四一、四二、四三の1・2、四四の1ないし6、四五、四六、四七の1・2、四八ないし五一、五二の1・2、五三ないし五七、五九ないし六一、甲B一七、乙一ないし三、四の1・2、五の1ないし3、六、七、八の1ないし3、九の1・2、一〇、一一、一三ないし四一、四二の1・2、四三ないし四九、五〇の1ないし3、丙一ないし一八、証人渋谷愛郎、同大島祥一、証人甚田隆康、同上野博明、承継前原告岩住幸郎本人、原告兼原告会社代表者岩住泰子本人、被告川口義信本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  岩住サッシは、幸郎の祖父岩住卯三郎が大正元年に大阪市東区で創業した防火扉等の製造販売業を営む岩住卯三郎商店を前身とし、幸郎の父岩住幸治郎が昭和二二年一月二八日に設立したスチール製サッシの製造販売等を営む株式会社であった。同社は、平成二年七月当時、資本の額は五〇〇〇万円、発行済株式総数は一〇〇万株であり、兵庫県尼崎市水堂町に本件土地一万二〇五三平方メートル及び同敷地上の本社社屋及び工場を、大阪市西淀川区千舟に借地八八八・五五平方メートル及び同土地上に歌島工場の建物を有していたほか、東京、福岡、広島、仙台及び名古屋等に営業所を有しており、年間売上高は約二〇数億円、社員総数は約一〇〇名で、幸郎(昭和一二年一二月生)が代表取締役として経営を掌握し、同人の妻原告泰子(昭和二三年五月生)も取締役を務めていた。岩住サッシの発行済株式一〇〇万株のうち、幸郎が二七万五五〇〇株を、原告泰子が九万八〇〇〇株を、原告会社が一九万八〇〇〇株を有しており、幸郎の兄弟等の親族がその他の合計三七万二五〇〇株を保有していた。

また、原告会社は、昭和五三年一二月一八日に設立された、アルミサッシの製造販売等を業とし、岩住サッシの前記社屋内に社屋及び工場を有する岩住サッシの関連会社であり、資本の額は九〇〇万円、発行済株式総数は一万八〇〇〇株の株式会社で、原告泰子が代表取締役を務めており、平成二年七月当時、幸郎らで実質的にはその全株式を保有していた。

岩住サッシの取引先には日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)及び新日軽株式会社があり、平成二年当時、岩住サッシの業績は好調であったが、幸郎ら夫妻には子供がなく、また、幸郎の親族らもそれぞれ別の職業に就いており、特に岩住サッシの社内に後継者とされる人物もいない状態であった。

2  被告支店は、株式会社三和銀行歌島橋支店(以下「三和銀行」という。)と並ぶ岩住サッシの主要取引銀行であり、昭和六三年頃、幸郎に対し、幸郎が保有する岩住サッシの株式を被告支店の融資により原告会社に譲渡して、幸郎はキャピタルゲインを得るとの税務対策を提案したが、幸郎は、同支店の融資条件があまりに幸郎や岩住サッシに不利であったことから、三和銀行から融資を受けて、被告支店が提案した右税務対策を実行したため、岩住サッシと被告支店とは一時疎遠になった。

しかし、被告支店は、平成元年頃、畑中が被告支店の支店長に就任して以来、度々岩住サッシ社屋を訪問するなどして、関係改善を図ったため、被告支店と岩住サッシの付き合いが再開するに至った。

畑中支店長は、右1のとおり岩住サッシには後継者がおらず、幸郎も高齢であり、岩住サッシが尼崎市内に広大な工場用地を有していることから、被告支店の大型融資案件として適当であると判断して、幸郎らに対し、本社工場をほかに移転して、跡地に養老院を建設することを提案し、原告らを京都にある有料養老院の見学に連れていったほか、ゴルフ、お茶屋遊び、プロ野球観戦、相撲見物等の接待を行うなどして、幸郎らとの交際を深めていった。

3  被告銀行は、平成二年頃、情報開発部において、企業買収及び合併等のいわゆるM&A業務を行い、アサヒビール株式会社による順興薬品工業の買収等を成約させていたが、被告支店を介して、前記のとおり幸郎に後継者がいないことや岩住サッシが尼崎市内に含み益の大きい広大な本社工場敷地を有していることに着目し、国内では大型のM&A案件となる岩住サッシの企業売却を手がけようとして、平成二年四月二四日、原告らを被告支店に招き、畑中支店長のほか、情報開発部の湊次長及び渋谷部員が原告らと面談して、岩住サッシの会社売却を提案した。

幸郎は、これらの席上で、岩住サッシの事業の継続を望んでいる旨発言したので、情報開発部は、事業継続を前提とし、岩住サッシの会社価値を試算して、買手候補を選定することとし、岩住サッシの所有する不動産、有価証券及びゴルフ会員権等を簡易に時価査定した結果、時価純資産方式による概算により、同社の企業価値を一〇〇億円以上と算定した。

その後、被告銀行は、幸郎らを、同年五月二五日には、江川専務が被告銀行本店貴賓室に招いて午餐会を開催し、同年六月一三日には被告支店の支店長に就任した大島がレストランに招待する等して、岩住サッシの会社売却を働きかけたので、幸郎らも、大島をゴルフに招待するなどし、被告銀行と幸郎らの間では、その後も、岩住サッシの会社売却について話し合いが続けられた。

4  幸郎らは、当時、特に健康に不安はなく、直ちに岩住サッシを売却することを考えていたわけではなかったが、被告銀行からこのような働きかけを受けて、日本を代表する大手都市銀行である被告銀行が岩住サッシの売却に携わってくれるのであれば安心であり、幸郎らは多額の現金を手にして老後を過ごすことができるほか、今後とも譲渡先の一部門として岩住サッシの事業が継続されることは従業員にとって望ましいので、この際岩住サッシの会社売却を進めるのが適当であると考えるようになり、遅くとも同年七月一五日までには、大島に対し、原告らが保有する岩住サッシの株式の売却を被告銀行に依頼したい旨を伝えた。

これに対し、被告銀行は、この頃には、大阪市内で不動産業等を営む辰野が経営の多角化による株式上場を計画しており、上場計画の中核となる企業買収を検討しているとの情報を入手していたので、大島は、幸郎らに対し、「岩住サッシは一〇〇億円以上の値打ちがある。」、「今一〇〇億円以上を動かせるのは辰野しかない。」等と述べて、岩住サッシを辰野に売却することを勧めた。

このようにして、被告銀行は、情報開発部を担当として、原告らが保有する岩住サッシの株式を売却する方向で、辰野に打診することとなった。

5  しかしながら、原告らが保有する岩住サッシの株式は発行済株式総数の四分の三に満たなかったところ、岩住サッシは、平成二年八月二九日、新株一〇〇万株を発行して、資本の額を一億七〇〇〇万円とし、原告らの持株数は、幸郎が九七万九五〇〇株、原告泰子が二五万二〇〇〇株、原告会社が三九万六〇〇〇株となり、原告らだけで商法上の特別決議をすることが可能になった。

6  幸郎らは、右4のとおり、大島から岩住サッシの価値が一〇〇億円以上になると知らされ、また、岩住サッシの監査役兼顧問税理士の甚田や顧問公認会計士の上野に相談するなどして、岩住サッシの資産価値に照らすと、解散による清算を行った場合の税引後の手取額が二〇数億円と試算されることから、いかなる方法によるにせよ、最低でも右金額以上の現金を取得するのでなければ岩住サッシを売却する意味がなく、できれば五〇億円以上の現金を取得したいと考えるようになり、平成二年九月一三日、渋谷及び大島らと面談し、株式売却の方法によって、岩住サッシの株式を代金一〇〇億円で売却し、税金を差し引いた手取現金では五〇億円程度を取得したいとの希望を述べた。

7  その後、被告銀行は、幸郎らに対し、岩住サッシの会社売却の依頼を書面化させ、右事業を推進しようとして、渋谷らは、岩住サッシ及びその全株主が岩住サッシの経営権を第三者に譲渡する一連の取引に関し、被告銀行が右取引を行う相手方の斡旋・紹介及び相手方との協議・契約調印・決済における立会・助言等を依頼する旨の依頼書を交付して、署名押印を求めたが、幸郎は、この段階では、未だ依頼書を作成する段階ではないとして、作成は留保したい旨返答した。

また、情報開発部は、平成二年一一月七日、辰野に岩住サッシの会社買収を持ちかけ、以後、辰野は、岩住サッシの全株式を取得することを前提として右買収を検討していたが、平成三年五月二八日には、岩住サッシとは業種があまりにも異なっていることや、岩住サッシの主たる財産である本件土地の不動産価格が下落傾向にあって、幸郎らの希望する株式の売却価格との間に大きな乖離が生じたこと等を理由として、被告銀行に対し、岩住サッシの買収断念の意向を伝え、渋谷は、同日、幸郎らに対し、その旨を伝えた。

8  幸郎は、これに先立つ平成三年五月二一日、東京証券取引所及び大阪証券取引所の第一部に上場する東洋シャッターによる高級建築金物取扱業者オーシマの吸収合併の新聞記事を見て、被告支店を訪れた上、大島に対し、東洋シャッターは岩住サッシにも興味を示す可能性があるので、合併の手続や株式譲渡との利害得失を教えて欲しいと申し入れた。

そこで、大島は、情報開発部に対し、合併に関する資料の作成を依頼し、情報開発部は、直ちに、合併比率や合併した後の合併会社の株式の換金性等を記載した資料の作成に取りかかり、同月二八日の辰野による買収断念以後は、辰野以外には現金で一〇〇億円もの買収資金を用意できる企業が見当たらなかったことから、合併の方法による岩住サッシの会社売却を検討するようになった。

9  渋谷及び大島は、平成三年六月一〇日及び同月一七日、幸郎らに対し、「今大阪で一〇〇億円出せる会社はない。」などと述べ、株式売却の方法による会社売却をあきらめて、合併の方法による会社売却を提案し、合併とは、被合併会社の株主が同会社の株式を合併会社に引き渡して、代わりに合併会社の株式を取得することであり、会社の評価額は、最終的には双方の交渉によって定まること、東洋シャッターと合併する場合には、同社が上場会社であるため、当時の税制では同社の株式を売却する際には一パーセントの有価証券取引税を支払うだけで足りるので、岩住サッシの株式を売却する場合と比較すると、税金面で有利であること、上場会社と合併すれば換金しやすいことを大いに強調する一方で、合併により取得した大量の東洋シャッター株式を一度に市場で売却する場合には、株価が下落する可能性があること、同社から安定株主となるよう要請されることが予想されること、取得する同社株式が多量であるため、これを換金するにはいわゆるはめ込み先を探す必要があることについては、一般論として一応の説明をするにとどめ、同社との合併を推進するよう勧めた。

また、情報開発部は、同月一〇日、幸郎らに対する説明の後、その同意を得て、東洋シャッターの取引支店である被告銀行上町支店(以下「上町支店」という。)を介して、東洋シャッターに対し、岩住サッシを吸収合併する意思があるかを打診したところ、同月一三日には、東洋シャッターから、岩住サッシとの合併を前向きに検討するとの返答を受けた。

このようにして、東洋シャッターが岩住サッシの吸収合併に関心をもったことから、情報開発部では、岩住サッシの会社売却先を東洋シャッターに絞って、M&A業務を進めることとし、渋谷や大島は、同月一七日の説明の際には、幸郎らに対し、東洋シャッターが会社売却先として有力であることを伝えるとともに、同日の面談以降、ますます積極的に同社との合併を勧めるようになった。

10  東洋シャッターは、平成元年九月に東京証券取引所及び大阪証券取引所の第二部から第一部に指定替えになった会社であり、平成三年六月当時は、一部上場企業としての歴史は浅く、資本金も約七五億二五〇〇万円で、発行済株式総数は約三七〇〇万株であり、同社の株式は、当時、流通株式数もそう多くはない、いわゆる小型株であったため、値動きが激しくなる可能性も否定できない銘柄であった。また、幸郎らが額面金額合計で一〇〇億円前後の大量の株式を取得した場合には、同社の月間売買高が数一〇万ないし数一〇〇万株にとどまっていたことに照らすと、これらの株式を市場で短期間に換金することは事実上は不可能であった。

情報開発部は、当時、同社の事業規模や株式の月間売買高等についても十分な調査を行っており、渋谷らも、右9の各説明の際には、前記の各事情を十分に知っていたが、幸郎らに対しては、東洋シャッター株式は比較的値動きの安定した株式であるとの説明をしたほか、右合併案件を成立させ、実績を上げることを望むあまり、幸郎らが大量の同社株式を市場で短期間に換金することは事実上は不可能であるとの説明は行わず、かえって、被告銀行は右合併に関わった以上は幸郎らが取得する東洋シャッター株式の譲渡先を斡旋すべき立場にある旨述べて、同被告が積極的に譲渡先を斡旋することをにおわせた。

また、渋谷や大島らは、東洋シャッターとの合併交渉において、被告銀行が岩住サッシの代理人となるのではなく、同社と東洋シャッターの間を取り持つ仲介人であることも十分に説明しなかった。

11  甚田は、岩住サッシの顧問税理士として右9・10の説明に立ち会っていたが、その際の渋谷らの説明を聞いて、日本を代表する大手都市銀行で、東洋シャッターの取引先でもある被告銀行が、系列会社や多数の取引先をも介して、幸郎らの取得する東洋シャッター株式の譲渡先を探すものと解釈し、そうであれば右株式の全部を早期に換金することも十分に可能であると判断して、幸郎らに対しても、渋谷らの勧めに従って、東洋シャッターとの合併を検討するよう助言した。また、右9記載の低税制はそれほど長期間は維持されない見通しであったことから、右税制を利用するのであれば、早期に譲渡先を見つける必要があるので、この点からも、被告銀行が譲渡先の斡旋を積極的に行うものと判断し、幸郎らにもその旨説明した。

12  右9・10の渋谷らの説明や右11の甚田の助言等を聞いて、幸郎らは、東洋シャッターとの合併後も、原告らが合併により取得する同社株式の換金について、被告銀行の協力が得られ、同被告が右株式の譲渡先を斡旋するので、短期間で容易に右株式全部を換金することができるものと考えて、東洋シャッターとの合併に乗り気となり、また、同社との合併交渉には、被告銀行が専ら原告らの利益に沿うよう原告らの代弁者となって行動するものと考え、十分に幸郎らの意向に従った交渉がなされるものと信じた。

13  情報開発部は、幸郎らに対しては、原告会社の処理をめぐり、東洋シャッターから合併交付金が交付される場合も想定した説明をしていたが、東洋シャッターの岡田社長は、平成三年七月四日、渋谷から、岩住サッシ及び原告会社について説明を受けた際、東洋シャッターは株式交換方式による合併しか行う意思はなく、合併交付金等で現金を支出することは考えていないことや、原告会社については岩住サッシの側で処理してほしいと述べた。

また、東洋シャッターは、同月六日、情報開発部から岩住サッシの詳細な決算資料の交付を受けて、社内で岩住サッシとの合併について検討を重ね、同月二四日には、情報開発部に対し、同社との合併を具体的に検討したい旨回答した。

14  これを受けて、渋谷は、平成三年七月二六日、被告アシストに対し、被告銀行として、岩住サッシと東洋シャッターが実際に合併するとすればどの程度の合併比率になるのかを調べ、両者の合併交渉の基礎資料とするために、両社の合併比率について複数の計算式で算定した調査報告書を作成するよう依頼した。

被告アシストは、被告銀行の右依頼を承諾し、被告川口を中心として、社員の古家涼子及び所属の森本由美子税理士が右案件に取り組むことになったが、被告福島は、右案件には全く関与しなかった。

渋谷は、被告アシストに対し、報告書作成の資料として、平成三年七月二九日に岩住サッシの平成三年三月末期の決算報告書を、同月三〇日に東洋シャッターの所有不動産一覧表及び岩住サッシの平成三年三月末期の確定申告書を、同月三一日に岩住サッシ歌島工場の地図を、同年八月一日に右工場の敷地・建物の登記簿謄本を、同月二日に会社四季報中の東洋シャッター・三共アルミニウム工業・日本アルミニウム工業の該当部分を、同月五日に東洋シャッターの株価グラフをそれぞれ送付した。

これに対し、被告川口は、渋谷に対し、合併比率を算定するに当たり、右資料のほか、岩住サッシ歌島工場のより正確な地図等の提出を要請したが、渋谷は、送付した資料の範囲で評価するよう求めた。

そこで、被告川口は、それ以外には、不動産の公示価格に関する資料及び東洋シャッターの有価証券報告書を独自に入手したのみであり、必要に応じて、被告銀行や証券会社に対し電話をかける等して、次のとおり、岩住サッシと東洋シャッターの評価を行った上、第一レポートを作成した。

(一) 岩住サッシの所有不動産については、渋谷から近隣公示価格による評価を指示されたため、公示価格によって評価することとし、また、右のとおり、正確な地図を入手することができなかったので、基準となる公示価格は、土地については「尼崎-14」、借地権については「西淀川9-1」であるとの注意書を付した。また、借地権の面積については、賃貸借契約書の送付がなかったので、登記簿謄本どおりの敷地面積としたため、実際の借地権の面積より広いものとして評価した。

(二) 岩住サッシの営業権の評価は、被告銀行からの依頼案件について通常用いていた超過収益還元法、純資産価値評価法及び収益年買法の平均値によって算出し、計算式を明記した。被告アシストは、昭和六三年頃から、情報開発部の依頼を受け、同部が手掛ける企業買収等の案件について税務・会計上の相談を受け、平成三年八月頃までには約一〇〇件の案件に関与していたが、右評価方法は、これらの案件で通常用いていた方法であった。

また、原告会社については、受領した資料中には同社のものはなく、渋谷からの評価依頼もなかったので、特に考慮しなかった。

(三) 東洋シャッターの株価については、同社が平成三年三月二六日に株式の無償交付をして権利落ちしていたところ、渋谷から、同月の権利落ち後の月平均株価で評価するように指示があったので、これに従った。

15  被告アシストは、右14(一)ないし(三)の評価を基に、東洋シャッター対岩住サッシの合併比率を、簿価純資産比較方式によれば一対〇・四七、時価純資産比較方式によれば一対三・〇三、時価純資産方式によれば一対一・五二、類似業種比準方式によれば一対〇・一五と算定し、結論としては、合併比率を一対〇・八ないし一・三程度が相当として、第一レポートを作成し、平成三年八月九日、被告銀行に対し、同レポートを提出した。

なお、被告アシストは、岩住サッシのような非上場会社の評価には決まった方法がなく、評価方法や計数の取り方等によって異なる数字を出すことができるものの、同レポートの作成は仲介人たる被告銀行から依頼を受けたものであったため、特に売主である岩住サッシに有利な結論を出すとの意識はなく、実際の結論も特に岩住サッシに特に有利なものとはいえなかった。

16  渋谷は、平成三年八月九日、幸郎ら及び甚田に対し、第一レポートを交付した上、同レポートを踏まえて、東洋シャッターと岩住サッシの合併比率が、類似業種比準方式では一対〇・三程度になること、東洋シャッターからは合併比率一対一でも難しいといった話も出ていること、本件合併によって流通性のない岩住サッシ株式が上場株式に変わり、処分性に優れること等を挙げて、合併比率一対一で東洋シャッターと合併するように説得し、右条件を東洋シャッターに提示することを提案したが、原告泰子は、株式売却後の原告らの手取現金総額が約六〇億円になることを希望し、そのためには一対一・二以上の合併比率が必要であると述べ、合併に伴う税金や経費を差し引いた手取現金総額が五〇億円以下となる場合には合併をしないと主張した。

そこで、渋谷は、さらに、東洋シャッター株式は換金性があることや、低税率等の本件合併の長所及び東洋シャッターの事業の発展性等を指摘して、原告泰子の説得に努めるとともに、甚田も、東洋シャッター株式が将来値上がりすることも期待できることや合併による事業継続で従業員の利益になること等を説明したが、原告泰子の意向は変わらなかった。

これに対し、幸郎は、東洋シャッターの将来性や従業員の生活の安定を考えると同社と合併することが望ましいが、同社との合併には同社にとっても多角化が推進されるとの多大な利点があるので、交渉は強気で臨みたいと述べ、原告泰子の意向もあるので、東洋シャッターへの提示条件は、合併比率一対一・二としたいと主張した。

また、甚田は、東洋シャッターが対外的に一対一以下の合併比率にこだわるのであれば、岩住サッシは株式分割等によって対応できることや、交渉の際には合併比率ではなく幸郎らの手取現金額が六〇億円以上となる取引額を提示してはどうかとの意見を述べた。

このような話し合いの結果、原告らは、基本的には東洋シャッターとの合併を希望しているが、東洋シャッターに提示する条件は、現段階では、取引総額を七〇億円超(合併比率一対一・二)とすることとなった。

そして、甚田は、渋谷に対し、係数の変更等によって第一レポートより岩住サッシ側に有利な結論を出すことも可能であり、高めの数字から交渉を開始するのが相当であるから、合併比率を一対一・五程度とするレポートを作成するよう申し入れ、渋谷も、これを承諾した。

17  渋谷は、平成三年八月一六日、東洋シャッターの取引支店である上町支店の河野(以下「河野」という。)支店長らとともに、被告川口ら被告アシストの担当者と面談し、幸郎らが合併を決意したことや幸郎らの合併比率に対する意見等を伝えた上、合併実施を前提として、株式換金後の原告らの手取額が五〇億円ないし六〇億円となるよう時価純資産方式による合併比率一対一・五二とした報告書を作成できないかを打診したところ、被告川口は、時価純資産方式は、M&Aにおいて多く採用されてきた評価方式であること等から右のような報告書の作成は可能であると判断し、被告銀行に対し、新たな報告書となる第二レポートを作成することを引き受けた。

18  渋谷及び河野は、平成三年八月二〇日、東洋シャッターの岡田社長らに第二レポートを提示し、岡田社長は、被告銀行に対し、岩住サッシとの合併に関する依頼書を提出するとともに、同月二二日の常務会において右合併を推進することを正式に意思決定した上で、岩住サッシとの交渉を開始したいと伝えた。

そこで、渋谷と大島は、東洋シャッターの意向を考慮し、この案件を成約させるために、右常務会後である同月二八日、幸郎らに対し、東洋シャッターが単純な合併を希望している旨を伝えたほか、第二レポートを交付し、株式売買の場合には幸郎らには二六パーセントもの譲渡所得税が課せられるのに対し、合併の場合には上場企業の株式は証券会社を通すと課税負担が譲渡対価の一パーセントで済むなどと述べ、上場会社との合併の場合には売手は取得した株式をいつでも自分の意思で換金できる旨を記載した書面等を交付して、合併交付金の授受がない単純な合併方式を採るよう求めた。

19  幸郎らは、第二レポートについて、上野にも意見を求める等して検討し、平成三年九月九日には、甚田同席の上で、渋谷及び大島と会い、第二レポートでは不動産の評価が公示価格となっており、借地面積が間違っているほか、参照頁がないことを指摘したが、大島は、右レポートは専門家である公認会計士が作成したものであり、岩住サッシにとって良い評価となっている旨返答した。

その後、幸郎らと渋谷らとの間では、合併方法は、東洋シャッターの希望どおり、全株式交換方式を採用し、原告会社は岩住サッシに営業譲渡をすること、東洋シャッターの株価は同年一〇月一日に予定されているオーシマとの合併期日後に下落する可能性もあるので、合併比率決定は右期日後にすること、岩住サッシの親族株主の意思確認は被告銀行が行うことのほか、東洋シャッターに申し入れる合併条件は、岩住サッシ株式評価額を一株四六〇〇円(合計九二億円)、東洋シャッター株式評価額を一株二七〇〇円、同社対岩住サッシの合併比率を一対一・七、幸郎の役員退職金希望額を二億四〇〇〇万円とすることが話し合われ、原告らが合併によって取得する東洋シャッター株式の売却は、その時点では、取得株式数や取得時期が確定できず、インサイダー取引規制との関係で、現段階では証券会社と接触することができないことから、合併契約締結及び対外発表が済んだ後に証券会社も交えて検討することとし、売却交渉に際しては、希望する手取現金額五〇億円を念頭に余裕をもって臨む必要があることを確認し、東洋シャッター側から申出のある買収監査を受け入れるために、合併交渉に関し、東洋シャッターに対して覚書を締結するよう求めること等が決まった。

20  東洋シャッターは、平成三年一〇月四日、岩住サッシの工場を見学した上で、同月一四日、渋谷に対し、東洋シャッター対岩住サッシの合併比率を一対一・五とすること、東洋シャッターの株価を同年九月末日の価格である二八七〇円とすること、右合併比率であれば覚書を締結することを承諾するので、岩住サッシには、買収監査を受け入れるよう依頼することを求め、渋谷は、同日、東洋シャッターが提示した右合併条件を幸郎に伝えた。

21  幸郎らは、平成三年一〇月一八日、渋谷及び情報開発部の青木次長に対し、東洋シャッターとの合併条件については慎重に検討したいと考えており、原告らとしては、被告銀行に合併比率及び取引総額について明確な承諾の意思表示をしたとは認識しておらず、同被告から交付を受けた第二レポートは不動産の評価に公示価格を用いているが、公示価格は時価の七割が相場であるから、時価との差額三六億円を踏まえて、岩住サッシを一〇〇億円から一一〇億円程度で売却したいと申し入れた。

これに対し、渋谷らは、右16のとおり、同年八月の段階で幸郎らから取引総額は七〇億円強程度、合併比率一対一・二ないし一・三を落としどころとして、合併比率一対一・五(総額九〇億円)から交渉を始めることで了解を得ており、第二レポートもこれを踏まえて作成されているもので、東洋シャッターとの交渉開始は幸郎に了解を得て行ったものであり、不動産の時価は現在では公示価格と同水準となっているので、被告銀行は本件土地の価格を九〇億円とする評価は妥当であると考えていると述べたが、幸郎は、手取現金額を考えると、九〇億円は最下限の数字であると主張した。

また、幸郎ら及び甚田は、同年一〇月二一日にも、渋谷及び大島と打ち合わせを行い、第二レポートは不動産評価額を低くしすぎており、岩住サッシの株式評価額は約一三〇億円より再交渉し、約一一〇億円で合併したいと申し入れたが、渋谷らは、幸郎らの不動産評価額は実勢と乖離して経済的合理性がなく、不動産価格の見直しを行うのであれば鑑定評価をとるべきであると述べたほか、被告銀行としては、岩住サッシの株式評価額は約七〇億円強が妥当と考えており、東洋シャッターと九〇億円で決着しているのはむしろ同被告による成果であると返答した。

そして、原告らと被告銀行は、右協議の結果、東洋シャッターに対し、合併条件として、株式評価額を変更せずに幸郎の退職慰労金等を積み上げる方法を採ること、不動産評価は甚田が行うことで折り合い、被告銀行が東洋シャッターに対し、新たな条件として、岩住サッシの株式評価額を九〇億円、東洋シャッターの株価を二七〇〇円とし、岩住サッシの評価額を据え置いたまま、幸郎の退職金二億四〇〇〇万円及び合併費用約二億円を岩住サッシから支出するとの案を提示することになった。

その後も、幸郎らは、岩住サッシを売却する以上は、できるだけ高額な現金を手にするために、岩住サッシの企業価値を高額なものにしたいと考え、甚田は、岩住サッシの土地含み益を約一三七億円とする査定書を作成して、平成三年一〇月二五日、渋谷に交付した上、幸郎ら及び甚田は、同月二九日、渋谷及び大島と面談したが、渋谷らは、甚田の査定は公示価格を準用したものであり、土地の時価ではないとして取り合わなかったので、原告らは、本件土地及び歌島工場借地の不動産鑑定を行うことにした。

22  渋谷及び河野らは、平成三年一〇月三〇日、岡田社長らと面談して、右21の合併条件を伝えたところ、岡田社長らは、岩住サッシの株式評価総額は了解するが、基準となる東洋シャッターの株価は同年九月末日の二八七〇円とすること、幸郎の退職慰労金及び合併費用を原告ら個人ではなく岩住サッシの負担とすることも可能であるが、その場合には会社価値から差し引くのが当然であること、東洋シャッターの常務会では、原告らに交付する株式数は三〇〇万株とすることで承諾しているが、多少の変更は可能であることを回答した。

その後、東洋シャッターは、同年一一月七日、妥協案として、岩住サッシの株主に交付する株式数は三一〇万株を上限とすること、岩住サッシが幸郎の退職慰労金及び合併費用を負担することを承諾するが、東洋シャッターは退職慰労金の支払に関与したくないので、合併契約以前に支払を完了することを提示した。

23  東洋シャッターは、平成四年四月一日付けで合併をすることを希望しており、右期日に合併するためには、平成三年一一月一五日までに覚書を調印する必要があったので、渋谷及び大島らは、同月七日、原告らに右妥協案を提示し、右条件による合併をすること及び覚書に調印することを承諾するよう迫ったが、幸郎は、熟考するとして、翌日まで返答を留保した。

その後、泰子と甚田は、同月八日、渋谷らに対し、幸郎の代理人として、交付を受ける東洋シャッター株式は三一〇万株、退職慰労金は二億四〇〇〇万円とすることで承諾する旨伝えた上、幸郎は右承諾を極めて不本意と考えており、現状では不満が残るので、右合併条件とは別に一億円を上積みすること及びゴルフ会員権を幸郎に低額で譲渡する方法で幸郎の実質所得を増額することを申し入れた。また、幸郎も、同月一二日、自ら右同様の要請をするとともに、覚書記載以外の合意事項についても、書面で確認することにしたいと申し入れた。

これに対し、東洋シャッターは、同月一三日、渋谷らに対し、一億円の増額は承諾できないが、ゴルフ会員権の低額譲渡については退職慰労金の一部として税務面で問題がない範囲で承諾すること、合意事項の文書化も承諾することを伝えたので、渋谷及び大島は、同日、幸郎らに対し、右各合意内容を記載した書面を交付して、同人らの了解を得るとともに、合併に関する覚書の内容についても承諾を得た。

24  幸郎と岡田は、平成三年一一月一五日、それぞれ岩住サッシと東洋シャッターを代表して、合併に関する覚書(甲A一一)に調印し、東洋シャッターは、右調印以後、岩住サッシに対する買収監査を開始した。なお、岡田の要望により、右覚書の作成日付は同月二一日とされた。

渋谷と大島は、右調印の際、幸郎に対し、被告銀行宛の東洋シャッターとの合併に関する依頼書を提出するよう求めたが、幸郎は、この段階でも、時期尚早として、依頼書の提出を留保した。

25  ところで、東洋シャッターの株価は、その後も、下落を続ける一方だったので、幸郎らは、不満を募らせていた。

甚田は、平成三年一二月三日、幸郎と面談したところ、幸郎は、東洋シャッター株式の下落は大変不愉快であり、東洋シャッターや被告銀行は何らかの責任を取るべきと考えており、合併契約を止めることもあり得るなどと述べた。

これに対し、甚田は、幸郎が既に覚書に調印をしたので、合併契約を取り止めることは難しく、株価は上がることもあれば下がることもある旨を説明したが、幸郎は、納得しなかった。

他方、岩住サッシは、同月一一日、株主総会を開催し、覚書に基づく株式分割に備えて、発行する株式総数を八〇〇万株とし、資本の額を二億円とするなど、本件合併契約に向けた手続を行った。

幸郎は、右株主総会後、甚田に対し、東洋シャッターの株価が下落し、合併条件が原告らに不利になったので、被告銀行や東洋シャッターに合併条件の変更を申し入れたいと述べた。これに対し、甚田は、一旦覚書に調印したのであるから、条件の変更は申し入れるべきではなく、覚書記載の条件のままで合併をするか、契約を破棄するかのどちらかしかないと助言したが、幸郎は、これを被告銀行よりの発言と受け止め、以後は、甚田を遠ざけ、合併交渉については、専ら上野公認会計士に相談するようになった。

26  渋谷と大島は、平成三年一二月二四日に東洋シャッターと岩住サッシの合併の記者発表を予定しており、同月二〇日、東洋シャッターから記者発表用の覚書(甲A一二)に署名押印をもらった後、大阪ヒルトンホテルにおいて幸郎と面会し、幸郎からも右覚書に署名押印をもらった。

幸郎は、この際、渋谷らに対し、合併によって原告らが取得する東洋シャッターの株価総額がこれまでに約一〇億円値下がりしているので、半分の五億円を東洋シャッターか被告銀行で負担してほしいと要望した。

これに対し、渋谷らは、被告銀行が負担することは拒絶したが、東洋シャッターに対して右要望を伝えることは承諾した。

また、幸郎は、同日、大島から、被告銀行に対する依頼書の提出を求められたが、これまでの同被告の対応に不満を抱いていたため、この日も依頼書を提出しなかった。

27  岡田は、平成三年一二月二四日、渋谷らに対し、幸郎の右26の要望は受け入れることはできず、幸郎が右要望を取り下げないのであれば、岩住サッシとの合併を中止すると述べたので、渋谷らは、幸郎にその旨を告げたところ、幸郎は、上野と相談した上、これ以上の合併条件の改善は望めないと判断し、ようやく右要望を取り下げたので、記者発表も予定どおり行われた。

しかし、幸郎らと上野は、この頃には、被告銀行が東洋シャッターとの合併に関して双方代理を行い、専ら同社の意向のみを取り入れて、本件合併を成立させることだけを優先しており、何ら岩住サッシ側の利益を考慮して行動していないのではないかとの懸念を持つようになっていた。

特に、幸郎は、被告銀行が本件合併契約を締結しさえすれば、合併後に当然に問題となる東洋シャッター株式の換金処理について責任ある対処をしないことを恐れるようになった。

このため、幸郎らは、同日、大島らに対し、同被告から提出を求められている依頼書案の条項に、<1>被告銀行に対する依頼事項として、「弊社及び依頼人株主の意向を十分理解した上での相手方との交渉」を追加すること、<2>岩住サッシ及び原告らの負うべき守秘義務に関し、「貴行も同様の義務を負うこと、相手方に対しても同様の義務を負わせること、且つ、貴行及び相手方の双方がそれぞれの義務を履行することを条件とします。」とのただし書を追加すること、<3>岩住サッシ及び原告らの自己責任文言につき、「貴行又は相手方に故意又は過失なき限り」という文言を挿入すること、<4>岩住サッシが負担すべき実費に関し、「弊社が事前に承諾したものに限り」との文言を挿入することのほか、<5>合併によって原告らが取得する東洋シャッター株式の換金に関する同被告の義務を明示するように要求した。

これに対し、大島らは、検討の上、右<1>ないし<4>については応じたものの、<5>については、文章上は、「本件に係る諸手続完了後も貴行に商業銀行として可能な限り依頼人株主の役に立つ様努力することを依頼します。」という表現にとどめることを求めた。

幸郎及び上野は、あくまでも被告銀行が東洋シャッター株式の換金を終えるまで責任を果たす旨を明記することを望んでいたが、被告銀行が作成する文書上の表現としては、右のような記載となることでもやむを得ないと判断して、これに応じることとし、幸郎が被告銀行の提案に係る右文言を付加した本件依頼書に署名押印して、右依頼書を大島に交付した。

本件依頼書において、被告銀行に東洋シャッターとの合併に関する手続等の依頼をしたのは、岩住サッシ並びに同社の株主のうちの幸郎、原告泰子及び原告会社であり、右三名の株主については、幸郎が代表して右依頼をする旨の体裁となっており、幸郎は、同社の代表取締役としてのほか、同社の株主本人並びに同社の株主である原告泰子及び原告会社の各代理人の立場で、本件依頼書に署名押印した。

28  岩住サッシは、平成三年一二月二七日、右覚書に従い、一株を二株とする株式分割を行って、発行済株式総数を四〇〇万株とし、岩住サッシと東洋シャッターは、同月三〇日、合併契約書(甲A一三)に調印して、本件合併契約を締結した。

また、原告会社は、平成四年一月一一日、岩住サッシと営業譲渡契約を締結し、同社に対し、譲渡日における時価を対価として、その営業の全部を譲渡したが、実際には、その後も、右対価は支払われなかった。

29  平成四年に入り、NTTが岩住サッシとの取引を停止するとの態度を示したため、東洋シャッターは、岩住サッシの大きな商権が失われ、その企業価値が大きく減少するものと判断し、平成四年二月頃、被告銀行を介して、岩住サッシに対し、合併比率を変更することを通告したが、その後、NTTとの取引は継続されることになったので、東洋シャッターと岩住サッシの間で、合併比率の変更が現実化することはなかった。

30  幸郎らは、本件合併契約後、東洋シャッターの株価が依然として下落を続けていた上、被告銀行が東洋シャッターの株式の譲渡先の斡旋等について何ら準備をしようとしなかったので、ますます被告銀行に対する不信感を募らせ、幸郎は、平成四年三月中旬頃、大島や渋谷に対し、東洋シャッターの株価下落による損失約一七億円について損失補償をするよう求め、大島らがこれを拒絶すると、原告泰子が取得する同社の株式を一株当たり二八七〇円で買い取るよう求めた。

また、幸郎らは、平成四年三月二五日、上野や大島らが同席の上で、被告銀行の情報開発本部長を務める小松専務と面談した際、同人に対し、幸郎らが岩住サッシを売却をしようとした目的は、高価な価値がある同社株式を換金して、二人で優雅にスペインで老後を過ごすことであったにもかかわらず、被告銀行が東洋シャッター株価の下落に何ら配慮していないとして抗議するとともに、原告らが取得する同社の株式の譲渡先を斡旋・紹介すること及びこのうち原告泰子が取得する株式については、同被告が斡旋・紹介して一株当たり覚書の評価額である二八七〇円で一括買収りをすることを要望する旨を記載した申入書(以下「本件申入書」という。)を交付しようとした。

しかし、小松専務は、右申入書を受領することを拒絶し、大島は、株式のとりまとめは銀行法に違反するなどと述べて、これに応じず、その後、被告銀行は、幸郎らに対し、同被告が本件合併契約後も商業銀行として可能な限り依頼人株主の役に立つよう努力する旨記載した文案を、同被告が受領できる文書の案であるとして示したが、幸郎らは、これには納得せず、話し合いは物別れに終わった。

31  岩住サッシは、平成四年三月三一日、被告銀行に対し、本件合併契約に関する手数料として、被告銀行の請求どおり、一億九四六三万九一〇〇円を支払ったが、右金員は、岩住サッシの同被告における預金の中から支払われた。

また、同被告は、東洋シャッターからも、岩住サッシと同額の手数料を受領した。

32  岩住サッシは、平成四年六月二九日、商業登記簿を閉鎖し、同年七月一日、本件合併契約に基づき、幸郎は一五一万八二二五株の、原告泰子は三九万〇六〇〇株の、原告会社は六一万三八〇〇株の東洋シャッター株式の交付を受けた。

33  被告銀行は、平成四年四月一日以降も、原告らに交付される東洋シャッター株式の譲渡先の斡旋作業を、自らも、また、関連証券会社を通じても、全く行おうとはしなかった。

原告らは、被告銀行が一向に東洋シャッター株式の譲渡先斡旋に応じないので、自力により右株式を時価で換金しようとして、平成五年頃、右株券を山種証券株式会社の支店に持ち込んだが、同支店では、東洋シャッター株式はいわゆる小型株である上、同社の個人筆頭株主である幸郎らが大量の株式を市場に出すことになれば、同社の株価が暴落することを説明し、また、同社の岡田社長の了解がなければ、株券を預かることもできない旨述べて、同社の株券を預かることも拒絶した。

このようにして、原告らは、本件合併によって取得した東洋シャッター株式が実際には容易に換金できないものであることを明確に認識した。結局、原告らは、その後も、一株も換金することができなかった。

東洋シャッターの株価は、その後も下落を続け、合併から一年後の平成五年四月一日の終値は一株一二五〇円に、本件口頭弁論終結時の平成一二年八月二四日の終値は一株九二円にまで下落した(顕著な事実)。

34  原告泰子は、幸郎の葬儀の際に、岩住サッシの元社員らから、東洋シャッターは阪神淡路大震災後に尼崎市に対し本件土地を被災者住宅用地として手取代金約四〇億円で売却したと知らされた。

二  争点一1ないし3(被告アシストの不法行為責任・被告川口及び被告福島の不法行為責任又は取締役の任務懈怠による責任)について

1  右一認定のとおり、第一レポート及び第二レポートの作成を被告アシストに依頼したのは被告銀行であり、同被告は、被告アシストに対し、岩住サッシと東洋シャッターの合併交渉の基礎資料となる調査報告書の作成を依頼したもので、被告アシストは、被告銀行に対し、同被告が提供した資料以外に、より正確な調査報告書を作成するために必要な資料を提供するよう求めたが、渋谷は、送付した資料の範囲で評価するように求めた上、不動産は近隣の公示価格により、東洋シャッターの株価は平成三年三月の権利落ち後の月平均によって評価するように指示したので、被告アシストは、同指示どおりに評価を行い、評価方法については報告書中に注記を付けて第一レポートを作成したものであり、また、原告らは、渋谷らと、右レポートをいわばたたき台として、東洋シャッターとの合併条件について協議し、その結果、合併比率を一対一・五程度と結論付ける報告書を作成することになったことを受けて、被告銀行は、被告アシストに対し、その旨を依頼し、被告アシストは、右依頼に基づき、時価純資産方式によって合併比率を一対一・五二とした第二レポートを提出したものである。

2  また、右一認定のとおり、原告らは、平成三年八月二八日、第二レポートを受領した後、同年九月九日には右レポートでは不動産評価が公示価格となっていること、借地面積が違っていること等に気づき、被告銀行にその旨を指摘したが、合併条件の交渉はそのまま継続し、本件合併は、岩住サッシと東洋シャッターが希望を出し合い、合併条件について妥協点を探るというように実質的な協議を経て、同年一一月一五日に、合併条件について合意に至っており、このような合併条件決定の経緯に照らすと、第二レポートの結果から形式的に合併条件が決定されたものではなかったということができる。

3  以上によれば、第一レポート及び第二レポートは、いずれも岩住サッシと東洋シャッターが合併交渉をするための一つの基礎資料にすぎないものであって、岩住サッシの正確な客観的価値を厳密に算出することを目的としたものであったとは認め難く、被告アシストは、依頼者である被告銀行の指示に従い、その目的に沿うレポートを作成したものであり、原告らも、右レポートを合併交渉の参考にした上で、必ずしも右レポートによることなく、自らの希望と意見に基づき、交渉を行っているということができるから、被告アシストには、原告らに対する評価義務違反等の注意義務違反の事実は認められないし、また、被告アシストが原告らの権利を侵害したということもできない。

4  したがって、被告アシストは、原告らに対して不法行為責任を負わないというべきであり、また、同被告が責任を負わないと同様の理由で、実際に被告アシストの右業務を担当した被告川口にも不法行為責任等は成立せず、被告川口に不法行為が成立することを前提とした被告福島に対する原告らの不法行為等に基づく主張も理由がない。

三  争点二1(被告銀行の債務不履行責任又は不法行為責任)について

1  合併比率決定上の注意義務違反について

(一) 前記一の認定事実によれば、被告銀行は、岩住サッシのみならず、原告らからも依頼を受けており、原告らに対し、本件合併に関して適切な助言を行う義務を負担していたということができるから、岩住サッシが不当に低い合併比率で合併を行い、岩住サッシの大株主である原告らが不当な不利益を被らないよう注意する義務を負っていたと解されるが、他方、本件合併は、契約に基づいて行われたのであるから、合併比率も岩住サッシと東洋シャッターの合意に基づいて決せられたものである限り、右合意が原告らの錯誤に基づくものであり、被告銀行においてその錯誤を知り又は知り得たにもかかわらず、そのまま合意に至らしめた等の特段の事情がない場合には、合併比率が必ずしも両社の客観的価値と一致しなくとも、被告銀行が合併比率決定上の右注意義務に違反したということはできない。

(二) しかるところ、前示のとおり、本件合併条件は、岩住サッシと東洋シャッターが相互に希望する条件を出し合い、両社の交渉によって決せられたものであり、幸郎は、第二レポートが企業の客観的価値を表すものとしては必ずしも正確でないことに気がついていたほか、交渉過程において合併条件や東洋シャッターの株価の値下がりについて不満を持ちながらも、第二レポートをたたき台とした上で合併条件を検討し、甚田や上野とも相談しながら、最終的には合併条件を承諾した上で、本件覚書に署名捺印し、平成三年一二月三〇日には本件合併契約を締結しているから、右合併条件は、本件合併契約の当事者である岩住サッシと東洋シャッターの合意に基づくものということができるし、右合意が原告らの錯誤に基づきなされたものと認めることもできない。

(三) したがって、被告銀行に原告らに対する合併比率決定上の注意義務違反があったとは認められないから、右の点に関する原告らの主張は理由がない。

2  合併中止申出の不当拒絶について

前記一認定の事実経過に照らすと、幸郎は、本件合併契約における合併条件を承諾した上、本件合併契約を締結したものと認められ、被告銀行が岩住サッシや原告らの合併中止の申出を不当に拒絶したことを認めるに足りる証拠はないから、右の点に関する原告らの主張は理由がない。

3  換金義務違反について

(一) 前記一の認定事実によれば、本件合併は、被告銀行が、幸郎らに後継者がなく、同人らが営む岩住サッシが都市部に含み益の大きい広大な工場用地を持つことに着目し、幸郎らに接待攻勢をかけるなどして、当時力を入れていたM&A業務を推進するために同社の会社売却を働きかけたことに端を発し、幸郎らが老後の高額な生活資金が入手できる上に同社の事業が継続されると考え、これに応じたことによって、正式案件となり、その後、一〇〇億円もの買収資金を現金で用意できる企業が見つからなかったことから、岩住サッシの会社資産を現金化するための前提として、東洋シャッターと合併するとの構想が固まってきたものであって、原告らが岩住サッシを東洋シャッターと合併させる目的はあくまで岩住サッシの会社資産を換金することにあったのであり、同社を解散して清算する方法によった場合でも、税引き後の手取額が二〇数億円と見積もられていたため、原告らとしては、株式譲渡若しくは合併のいずれの方法によるにせよ、あくまで右金額を上廻る現金を取得することを目的としていたもので、右目的の下で被告銀行に対し東洋シャッターとの合併交渉の斡旋等を依頼していたと認められ、被告銀行もこれを十分に承知していたものということができる。

これに対し、証人渋谷愛郎及び同大島祥一は、合併交渉当時、幸郎らが岩住サッシの事業継続を第一に考えており、合併後の東洋シャッター株式の換金についてはそれほど興味を抱いていなかった旨証言するが、前記一認定のとおり、幸郎らは、合併交渉の際に合併比率やその後の東洋シャッターの株価下落に深い関心を抱き、株価下落を理由として合併比率の見直しや損失補償を何度も求めていたことに照らすと、幸郎らが同社株式の資産価値や換金性を念頭に置いて交渉に当たっていたことは明らかであるから、右各証言は採用しない。

(二) したがって、被告銀行は、本件依頼書に記載されているとおり、岩住サッシの会社資産を換金したいとの同社及び同社の株主である原告らの意向を十分に理解した上で、原告らに東洋シャッターとの合併の適否及び合併条件について提案を行い、交渉を行うべきところ、前記一認定のとおり、被告銀行の担当者である渋谷らは、東洋シャッター株式は上場株式であるものの、いわゆる小型株であり、合併によって原告らが取得する大量の株式を短期間に市場で売却することが事実上は不可能であることを認識していたにもかかわらず、幸郎らには、東洋シャッターは比較的値動きの安定した株式であるとの説明をしたほか、右合併案件を成立させ、実績を上げることを望むあまり、幸郎らが大量の同社株式を市場で短期間に換金することが事実上不可能であるとの説明は行わず、合併した場合の換金の困難性については一般的な説明をしたにとどまり、かえって、被告銀行が同社株式の譲渡先を積極的に斡旋するかのごとき言動をしたため、幸郎らは、右渋谷らの説明により、被告銀行の協力によって合併により取得する東洋シャッター株式全部を短期間で容易に換金できるものと考え、同社株式の換金について特に不安を感じることもなく、上場会社との合併は換金の際に税金面で有利であるとの認識で合併方式による譲渡を承諾したものであり、その時点で、原告らが合併によって取得する東洋シャッター株式の譲渡先について具体的な協議を求めなかったのは、合併条件や合併時期が定まらなければ譲渡先との交渉ができないほか、インサイダー取引規制があったためであるにすぎず、本件依頼書徴求に係るこれらの事実経過に照らすと、被告銀行は、本件依頼書に基づく依頼者である原告らに対し、契約上、関連会社や取引先を介するなどして、原告らが本件合併によって取得した東洋シャッター株式を合併に伴う原告らへの新株発行後の合理的期間内に、時価を参考とした価格(全株式を右合理的期間内に、一括売却・分割売却を問わず、売却することのできる価格)で売却することができる譲渡先の斡旋等を行い、右株式を換金する義務を負うと認めるのが相当である。

また、前記認定の東洋シャッターの会社規模、資本の額、発行済株式数、同社株式の流通状況及び原告らが交付を受けた同社株式の数等に照らすと、当事者の合理的意思解釈としては、右義務における合理的期間及び時価を参考とした価格(前示のような売却可能価格)とは、具体的には、合併に伴う原告らへの新株発行後の一年内であり、当時の時価の二分の一を下らない価格であるとそれぞれ解するのが相当である。

(三) これに対し、被告銀行は、同被告が委任を受けたのは岩住サッシであるから、同社の株主である原告らに対しては法的責任を負わないと主張するが、右に認定したとおり、本件合併契約が当初は原告らの株式売却の依頼から始まっているとの経緯に加え、本件依頼書において岩住サッシのほかに原告らも依頼者となっていることからすれば、同被告は、岩住サッシとの間で本件合併に関して仲介契約を締結し、原告らとの間で同社株式の現金化に関する契約を締結したというべきであって、右二つの契約は相反するものではなく、両立するものであるから、同被告の右主張には理由がない。

また、同被告は、同被告が株式の譲渡先の斡旋について何らかの義務を負担するとしても、右はあくまでも努力義務であって結果を求める義務ではないと主張するが、日本を代表する大手都市銀行である同被告が努力しても換金できないものが原告ら個人の努力によって換金できるはずもなく、東洋シャッター株式の換金の困難性を十分に認識しながら、同社との合併を推奨した被告銀行の負担すべき義務を単なる努力義務と解するのは相当ではないから、右主張は採用しない。

さらに、同被告は、原告らが東洋シャッターの株式の一株当たり二八七〇円による一括買取に固執していたという状況下では、被告銀行に努力義務すらないと主張する。しかし、本件記録を検討しても、幸郎及び原告会社が右価格での買取りに固執したと認めるに足りる証拠はない。また、原告泰子についても、一株当たり二八七〇円での買取り等を求めているものの、その価格に固執し、それ以外の価格での売却を拒否する意思があったことまでを認めるに足りる証拠はない。もともと原告らは、合併条件について必ずしも満足していたわけではなく、本件合併契約締結当時には、同被告が存続会社である東洋シャッターの利益のみを考えて、原告らのためには行動していないのではないかとの不信感を抱いていたのであるから、右(一)・(二)記載の原告らに本件合併を承諾させた事実経過に照らすと、幸郎が本件依頼書を交付しようとした際にも、まず、被告会社において換金義務を果たすべく、早期に譲渡先の斡旋等に乗り出すなどして、信頼の回復に努めれば、幸郎らの不信感も和らぎ、原告泰子を含めた原告らが時価を参考とする買取りに応じた可能性も高かったと考えられる。よって、同被告の右主張も採用しない。

(四) ただし、原告泰子は、平成四年三月中旬頃の渋谷及び大島との折衝の際に一株当たり二八七〇円での買取りを求めたほか、同月二五日には、幸郎を介して、小松専務に本件申入書を交付しようとしたものであり、同原告との関係では、これらの言動が被告銀行の拒否反応を引き起こし、同被告が譲渡先の斡旋に努力する意欲を鈍らせ、その後の株価下落とも相まって損害の拡大という結果を招いたとも思料されるのであって、同原告固有の損害については、過失相殺として、三割を減ずるのが相当である。

四  争点二2(損害額)について

右三によれば、被告銀行の換金義務違反による損害は、本件合併から一年が経過した平成五年四月一日における東洋シャッター株式の終値一二五〇円の半額と本件口頭弁論終結時である平成一二年八月二四日の同株式の終値九二円の差額に原告らが取得した同株式の数をそれぞれ乗じたものであるということができる。

したがって、原告らの損害額は、原告泰子固有分について前記の三割の過失相殺を加味すると、次のとおりとなり、被告銀行は、同損害について、債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。

1  原告泰子の損害額 合計九億五四九四万六七八五円

(一) 幸郎からの承継分 八億〇九二一万三九二五円

(計算式) 一五一八二二五×(一二五〇×〇・五-九二)=八〇九二一三九二五

(二) 原告泰子固有分 一億四五七三万二八六〇円

(計算式) 三九〇六〇〇×(一二五〇×〇・五-九二)×(一-〇・三)=一四五七三二八六〇

2  原告会社の損害額 三億二七一五万五四〇〇円

(計算式) 六一三八〇〇×(一二五〇×〇・五-九二)=三二七一五五四〇〇

五  遅延損害金の起算日について

前記四記載の原告らの各損害に対する遅延損害金の起算日は、前記一年以内の換金義務の最終期限の翌日である平成五年四月二日となる。

六  換金義務違反の主張が時機に遅れた攻撃防禦方法か否かについて

被告銀行は、原告らの換金義務違反の主張に対し、右主張は時機に遅れた攻撃防禦方法であるとして却下を求めているが、原告らは、争点整理段階で既に同被告の換金義務を主張しており、当事者間で合意した第一七回口頭弁論調書添付の争点整理案六〇ないし六一頁にも右主張は記載されているから、同被告の右主張は採用しない。

第一一結語

以上によれば、原告らの第一事件請求及び第二事件主位的請求は理由がないから棄却し、第二事件予備的請求は、主文二項の限度で理由があるから認容し、その余の第二事件予備的請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき、同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下寛 裁判官 西田隆裕 裁判官 岩口未佳は差し支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官 山下寛)

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